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ダンジョン『兎の園』

 

「さってと、時間は……六時五十分か」


 七時に待ち合わせだからまだ余裕だな。


「あ、やっと来た! おっそいじゃない!」

「あ?」


 ダンジョン『兎の園』のゲート管理所の建物内に入ると、その瞬間に聞き覚えのある大きな声が聞こえた。


 そちらを見ると、予想通りというべきか、俺のチームメンバーである浅田佳奈がこっちを見ていた。


 遅いと言われても時間前にきたはずなんだがな……。

 とりあえずメンバーたちに挨拶しておくか。


「おはようございます」

「お、おはよう、ございます」

「おはよう」

「ああ、おはよう」


 俺が近寄ると浅田以外の三人は挨拶をしてきたのでそれに返すと、俺は浅田を指差して問いかける。


「で、さっきの遅いってのは? まだ時間前だろ?」

「すみません。ちょっと早く来過ぎてしまいまして……」

「早過ぎたって……初めての遠足ってわけでもないだろうに」

「私は初めて」

「安倍は、まあそうか。でも、お前はそんな緊張するタイプじゃないだろ?」

「ん。佳奈に急かされた」


 急かされた、か。


「なに?」

「……いや、なんでも」


 浅田の方を見ると睨まれたので視線を逸らして正面を向いた。


「それよりどうする? もう揃ってんだし行くか?」

「そうですね。私たちはもう準備も終わってますし、大丈夫です」

「なら、行くとするか」


 そして俺たちはチームとして二度目のダンジョンへと入るべく歩き出した。




「草原ね。兎の園という名前からしてそんな感じはしてたけれど……」

「広い、ね」


 ゲートを潜ると、その先には前回の洞窟とは違って一面の草原が広がっていた。

 見渡す限りの草原はなにも遮るものがなく、太陽の光が世界を照らしている。

 ここで寝たら気持ちいいんだろうな、なんて思わせる光景だが、それでもここはダンジョンだ。人ではなく化け物の領域。昼寝なんてしようものなら半日と立たずに死ぬような場所だ。


「……っ! みんな、周辺の確認を。敵やおかしなものがあったら報告」


 日本に暮らしていた宮野たちはこれほどの草原というものを見たことがなかったのだろう。あたりの景色に見惚れていたが、リーダーの宮野はハッと意識を戻してメンバーたちに警戒するように告げた。


 しかし、しばらくの間周囲の警戒をしていたのだが、なにも異常はない。


「ねえ、どの方角に進むの?」

「……この何処かにダンジョンの核があるんですよね?」

「もしくは地下への入り口や建物な。まあどっかしらに草原以外の何かはある」


 このままここにいても変わらないので先に進むことになったのだが、今度はどこに進めばいいのかという問題がある。


 今回ダンジョンに潜るにあたって課題として出されたのは、指定されたダンジョンの中の一つでいいので、ダンジョンを構成している『核』を見つけることだ。

 その核を壊せばダンジョンは崩壊し、ゲートは消滅するのだが、ここは初心者の教育用にいい場所なので壊してはならないことになっている。


 なので今回は本当に見つけるだけでいいのだが、その場所はこのダンジョンの情報を調べていない彼女たちにとってはどこにあるのかわからない。それ故に、どこにどう進めばいいのかもわからない。


「どうする?」

「って言っても特に目印とかないし、どうするもなにもなくない?」

「ヒントとか、ないよね?」

「ん、全部草原」


「とりあえず、ゲートから出て正面に進みましょうか」


 そうして進み始めたのだが、こいつら気付いてるのかね?


 ここのような見渡すことのできるダンジョンを開放型というのだが、開放型のダンジョンではモンスター以外にも気を付けないといけないことがある。

 気づいていなかったとしても今の時点でそれを言うつもりはないが、俺の方で対策はしておくか。


「っ、いた」


 しばらく歩いていると、先頭を進んでいた宮野が小さく声を上げて俺たちメンバーを制止した。


「兎、だね……」

「あれが本当にモンスターなわけ?」

「ああ。まあ近寄ればわかるさ」


 誰が行くのかってことになったのだが何かあってもすぐに対処できるようにと、この中で一番速さのある宮野が行くことになった。


「全然なにもないじゃん」

「まだ離れてるからな」


 だが、あとほんの十メートル程度まで近づいたにもかかわらず〝兎〟はプルプル震えているだけで動かない。


「あ、あれで離れてる、ですか?」

「ああ。あいつはこっちが気づいていなきゃ別だが、こっちがあいつに気づいてる時はほとんど触れるくらいまで近寄るか、攻撃を受けないとなにもしてこない」


 こっちが気付いていなかったら問答無用で奇襲をしてくるけどな。


「じゃあ近寄るとなにしてくんの?」

「それは自分たちで確認しろと言いたいが……ああ、ほら。その『何か』が起こるぞ」


 そうして話している間にも宮野は〝兎〟へと近づいていき、警戒しながらも剣を振りかぶった。

 が、その瞬間——


「きゃあああ!」


 それまで震えているだけだった〝兎〟は、突如その姿を変えて宮野へと襲い掛かった。


 しかし、ただそれだけなら警戒していた宮野があんな悲鳴を上げることもなかっただろう。だから彼女が叫んだ要因は襲われたことではなく他にある。


「……うわぁぁ」

「キモ……」

「なにあれ?」

「あれがここの『兎』の正体だ。敵に見つかると弱そうな姿に擬態して、獲物のふりをして近寄ってきた奴を喰い殺す」


 〝兎〟と宮野の様子を遠目に見ていた宮野以外の少女三人は絶句し、少しの間黙った後それぞれが感想を口にしたが、そのどれもが好意的とは言えないものだった


 それも当然だろう。先ほどまでは可愛らしい兎の姿だったのに、突然その姿が変異したのだから。


 宮野に攻撃をされそうになった瞬間、〝兎〟はグパァとかニチャァという肉感的な音を出しながら頭部から腹にかけて裂けた。

 そしてその裂け目から無数の細い触手を宮野へと伸ばした。

 その雰囲気を例えるのなら、まるでエイリアンのような感じだ。もしくはバイオなハザードに出てくる感じのアレ。


 兎があんなのに変わったら驚くのも無理はない。そこに女だからとか男だからとかは関係ないのだ。実際、俺も初回は驚いたし。


「ただし、見た目の異常さのわりに攻撃力はそこまで強いわけじゃないから、二級程度なら怪我はするだろうが、三級でもなければ生き残れる」


 それくらいまでに三級ってのは弱いんだ。ぶっちゃけ覚醒したとしても、三級とプロの格闘家だったら格闘家の方が強い。


 そんなことを話していると、敵を倒した宮野が戻ってきたのだが……


「えっと……これ、使う?」

「……ありがとう」


 突然飛びかかってきたからか、もしくはその姿に驚いたからか、対応が少し遅れてしまっていた。

 そのせいで、敵を倒すことはできたのだが、切り殺した敵の残骸、なんか白寄りのピンク色のデロデロした流動体を体に浴びることになったのだ。



「あれがここの敵だ。近くで倒しすぎるとそうなるから気を付けろよ」

「はい……」


 チームメンバーたちへとそう注意を促したのだが、実際に体験した宮野にとっては笑えないようで酷くテンションが下がっている。まあ俺もあんな状態になったら嫌だけどさ。


「……はぁ」

「え?」

「綺麗にしてやるから、ちょっと息を止めて動くなよ」


 これは調べていればわかったことだ。

 だが今回は俺がこのダンジョンについて調べるのと止めたせいでこうなった。それには理由があったのだが、こんな状態になったのは俺のせいとも言える。

 だから、初回くらいは手を貸してやってもいいだろう。


 というか、いくらダンジョンであまり人目がないとはいえ、こんなドロドロしたものを被せた状態の女子高生と歩きたくない。なんかこう、あれな感じがするから。


 俺は魔法を使ってサッカーボール程度の水を生み出すと、それを宮野の頭に向けて飛ばし、汚れを洗い流しながらそれを下へと移動させていった。


「これで終いだ。本当なら戦闘のための魔力が減るからあまりやらないが、初回くらいはな。こう言うこともあるんだと覚えて、次からは自分たちで対処しろ」

「わっ、綺麗になってる!」

「ありがとうございます!」


 北原が驚きの声をあげ、宮野は頭を下げて感謝を示したが、俺は軽く手を振って気にするなと答えた。


「それで、先に進めるか?」

「はい!」


 汚れが落ちたおかげで先ほどよりも元気な様子の宮野はそう返事をするとチームメンバーたちに声をかけて再び進み出した。


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