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だから嫌なんだよ!

 

 ──◆◇◆◇──


 観戦室で大型の画面を見ていた俺たちだが、俺は頭を抱えたくなった。


 この状況でそんなことをすれば目立つのでそんなことはしないが。


 宮野達は気づくだろうか? ……気づくだろうなぁ。いや、もしかしたら気づかない可能性も——


「あの、伊上さん」


 ——なかったわぁー。まあそうだよなー。気づくだろうとは思ったけど……気づくよなぁ。


「なにも言わないでくれ」


 だが、まだ平気だ。気づかれただけなら問題はない。元よりあいつが画面に出てきた時点でなんとなく想定していたんだ。

 何も聞かれなければなんの問題もな——


「今の放送の想い人って、あんた?」


 ——聞くなって言ったじゃん!


 あ、いや、俺が言ったのは「何も言うな」、であって「何も聞くな」ではなかったか。


 ……どっちにしても俺の願いは聞き届けられなかったことには違わないけどな!


「表に出てこないめんどくさがりで……」

「困ってる人を助けて、誇らないで消える」

「その上この街に住んでるとなったら……」

「どう考えても伊上さんですよね?」


 宮野の言葉は質問の形だが、もうほとんど断定している。

 というか、俺が答えなかったところで確証を持っている感じだ。


 なんでだよ。俺の他にもそう言う奴がいるかも知んねえじゃん。

 この街限定ってなると結構絞られるかもしれないけど、どっかしらにはそういう奴もいるはずだ。


「………………気のせいだ」


 ……なんて、そんなこと言っても絶対に信じてもらえないだろうなぁ。


「いや気のせいって、そりゃあ通らないっしょ」


 ですよねー。


 だが、だとしても俺は自分からあいつについて話すつもりはない。


「そのうち会うこともあるだろうから、その時になればわかる、かもしれない」


 俺としては分かって欲しくないんだけどな。

 だって、なあ? あいつだもん。


 少なくとも、こいつらには会わせたくない。あいつとこいつらが会ったら、なんか変な化学反応起こしてやりづらくなりそうだもん。何が起こるか全くわからない。


「会えばわかるって、なんだかそれ、さっきも聞きましたね」

「じゃあさ、今から会いにいかない? ほら、さっきいつでもおいでー、って言ってたし」


 浅田がそんな提案をしたが、ありえない。


「やだ。絶対やだ。いかない」


 ふざけんな。絶対に行かねえ。


「そんなにいや?」

「いや」


 もう、な。あれだ。嫌すぎて「いや」としか言えねえよ。


「でも、どうせそのうち会いに行くことに、なったりするんじゃないかな? 瑞樹ちゃん、勇者だし」

「そうね。一度くらいは挨拶に行ったほうがいいわよね。それを考えると今のうちに行っても変わらないような……」

「いーやーだー」


 絶対に俺はあいつのところになんて行かない!

 宮野達にも行ってほしくないが、宮野は勇者なので、立場的に会わないといけないってのは分かる。


 だが俺は行かない。

 行きたいのなら、行く必要があるのなら勝手に行ってくれ。あいつのところに行くくらいなら危険はないだろうからな。

 そもそも普段は常に一緒ってわけじゃなくて別行動で生活してるわけだし、こいつらが誰かに会うために離れて行動したところでなんの問題もない。


 だから俺は行かない。絶対に行かない。あいつのところになんて行ってたまるか!


「い、伊上さんが壊れた?」

「なんかちょっと可愛いかも」

「逆に気になる」

「そ、そうだね。あんなに嫌がるなんて、なんでなんだろう?」


 宮野が驚き、浅田が笑い、安倍と北原が首を傾げているが、そんなの知ったことか。


 できることならこのランキング戦の最中、顔を合わせないことを願う! まじで!


 ──◆◇◆◇──


 観戦室でそんなことを話した俺たちだが、絶対に『竜殺しの勇者』に会いに行かないと心に決めた俺を説得することは不可能だと宮野達が判断したことで、大人しく初戦を観戦することになった。


「あたし達の試合って明後日だよね?」

「うん、そうだよ」

「みんな、準備はしっかりね」


 そして、観戦を終えた俺たちは昼食を食べるために食堂に行ったのだが、食堂で昼を食べていると誰かが近寄ってきたのに気づいた。


 それに気づいたのはたまたまだったのだが、顔を上げてみると、そこには今一番会いたくない人物がいた。


「……なんで、お前がここにいんだよ」


 それは先ほどまで画面の向こうで試合中の異常の監視兼試合の解説をしていた外国人の青年——ジークだった。

 その手にはビニール袋がぶら下がっており、中には……多分だがパンが入っている。


「あれ? 放送聞いてなかった?」

「聞いてたから言ってんだろうが! 自分からは行かない、待ってるよー、なんて言ってたじゃねえか」


 そう。さっきこいつは確かにそう言っていた。だから俺は自分から会いに行かなければ大丈夫だと安心していたのだが……どうしてここにいる? と言うかその手のパンはなんだ? ここで食う気か?


「あはは、言ったねぇ。でもさ、それだといつまで経っても君は来てくれないじゃないか。だから、来ちゃった」

「放送はブラフかよ」

「うん。ああ言っておけば警戒が緩むかなって」


 あえて放送なんて大衆の目につくところで発言することで俺が見聞きする確率をあげ、その上で発言とは逆のことをする。


 それは効果的だろうよ。実際、俺は今の今までこいつが来ないと信じていた。


 だから来たことに驚いたわけだが……来んなよ。

 それから、一部では聖人なんて呼ばれるほどの奴が嘘つくなよ。


「でも、そんな顔されると傷つくなぁ。確かに嘘をついたのは謝るけどさ、そんなにだめだった?」

「駄目だな。来んな」


 元々童顔だと言うこともあるが、わざとやっているのだろう。庇護欲をそそらせるような困ったような顔をして俺を見上げているが、んなもんに騙されるわけがない。帰れ。


「うーん、これでも君の助けになってあげたと思うんだけどなぁ」

「助け? 何をした。さっさと吐け」

「うわー、なんだか尋問みたいになってるー」


 ジークはケラケラと面白そうに笑いながら俺の隣に座った。


 その様子からして今度は嘘をついていないんだろうと思うが、だが俺にはなんのことだか全くわからない。

 助けも何も、最近ではこいつに関わったことなんて全くないぞ。だってのに、何を助けたって?


「まあ、助けたってのはニーナちゃんのことだよ」

「あいつの?」

「そうそう。この間あの子の暴走があったんでしょ? で、学校が襲われた」


 ジークはさっきまでのチャランポランなものから真剣なものへと態度を変えて話し始めた。

 その様子を見て、仕方なく……ほんっとーに仕方なく話を聞くことにしたのだが、どうやら助けた云々ってのはニーナのことらしい。


 だが、それはそれで疑問がある。


「……あいつは誰も殺してねえぞ」


 そう。あいつは許可なく勝手に学校に現れてそこにいた生徒——宮野と戦ったが、結果としては誰も死んでいない。

 咎められるようなことがあるのは確かだが、それでもこいつに庇われるようなほどではないはずだ。


「らしいね。でも暴走して力を振るったのは確かだ。その時に、あの子の抑えとなれる君をずっと施設の中に一緒に閉じ込めておくって案もあったんだ」

「マジかよ……」


 だが、それは俺が知らなかっただけで裏では色々と問題があったようだ。


 俺は佐伯さんから状況を聞いただけだったが、その時はそんな話を聞いていなかった。

 おそらく佐伯さんは余計なことを気にしないようにとでも考えて、裏で何があったかなんて教えず、結果だけを俺に教えたのだろう。


「マジだよ。で、僕がそれに待ったをかけたんだ。そんなことをするようなら、竜殺しは人殺しに変わるってね」

「お前、それは……」


 人殺しになるってことは、ニーナの処遇を決めるような『上』の奴らを斬るってことだろう。


 本気か? と言葉にすることなく視線で問いかけてみるが、返ってきたのは肯定の言葉だった。


「本気だよ。あの放送で言ったことはほとんどが本当だ。嘘だったのは待ってる、って言葉くらいで、それ以外は紛れもない本音。君は僕の憧れでヒーローなんだ。君がいたから、僕はヒーローを目指した」


 その瞳は真剣なもので、放送の時やさっき俺に会った時のようにふざけた態度はカケラも見えなかった。


「まあ、僕が止めなくてもそうならなかった可能性が高かったみたいだけど、後押しくらいにはなったと思うんだ」


 直後には冗談めかしたようにヘラりと笑ったが、それはこいつなりの照れ隠しなんだろう。


「それは、まあ……ありがとう」


 俺はこいつに会いたくないと思っているが、人間性も性格も、嫌いってわけじゃない。ただ一点だけ問題があるだけで、ジークという人間はむしろ好ましいとすら思っている。


 まあその『一点だけ』って部分が大問題だから会いたくはないんだが。


 だがまあ、そんなわけで嫌っているわけではないので、俺はニーナを助けるために動いてくれたことを感謝するために、ジークに正面から向き合い頭を下げた。


「……うん。なんだろうね。期待してた言葉なんだけど……こうも〝クル〟ものなんだね」


 が、俺が感謝をして頭を上げると、ジークはなぜか恍惚とした様子でそんなことをほざいた。


 ……一応、分かっちゃいたが……だからこそこいつに会いたくないと思ってたわけなんだが……こいつは何を言っているんだ?


「今なら僕は君の子供を産めそうだ」


 マジデナニイッテンダコイツ。


「……気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ。だから会いたくなかったんだ」


 数回程度しか会ったことがないのだが、会うたびにこんな感じのことを言われる。

 結婚しようだとか、付き合ってみようとか、そういう類の言葉。


 コイツは童顔で、化粧なんかをすれば女子として間違うかもしれないような顔をしている。


 が、男だ。


 ついでに言えば、わかりきっているだろうが俺も男だ。


 男が男に告白する。

 詰まるところ簡単にぶっちゃけて言ってしまえば——コイツはホモだ。


 一応女性もイケるみたいだから正確には違うが、俺からしてみればどっちでもいい。


 俺はホモやゲイやバイや百合に関してはそれほど忌避感はない。当人同士が好きあってるなら自由にすればいいじゃんと思う。


 が、それは自分に関係なければの話だ。親兄弟が〝そう〟であっても気にならないが、俺には来るなと思う。俺はノーマルだ。


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