最後の素材集め
そして文化祭で使う素材集めも残すところあと一つとなり、今日はその素材の回収にやってきていた。
文化祭まで残すところあと二週間となったが、この調子で行けばかなり余裕をもって材料を揃えることができるだろうな。
そうなればこいつらも普通に文化祭を楽しむこともできるだろ。
「えー、それじゃあ今回はこの一級のダンジョン、『栄枯の大地』に行くが……えー、質問タイムだ」
なんかもう聞かなくてもちゃんと調べているように思えるし、そのせいで前回は普通に聞くのを忘れていたが、ふと「そういや前回は聞いてなかったな」と思い出したので今回は聞いておこう。
「宮野、このダンジョンの由来はなんだ?」
今日の素材の回収はそれほど難しいものでもないが、例によって結構厄介な場所だ。
「はい。ダンジョンそのものは荒野と一部砂漠で、植物はおろかモンスターさえもが一種類しかいないほど枯れているにもかかわらず、上空からは魔力を多く含んだ飴が降ってくるからです」
正解だ。まあこいつはしっかり勉強してるだろうな。優等生タイプだし。
とはいえ、勉強しているのはこいつだけではなく全員だってのは今までのことからわかっている。誰に聞いたところでちゃんと答えることができるだろう。
このダンジョンは、宮野の言ったように大地には植物も動物もまともに存在しないほど魔力がないにも関わらず、空からは鬱陶しいくらいに魔力の篭った飴が降り注いでくる。
そして地面に落ちた飴は数秒もすれば地面に沈むように消えるが、それが地面に吸収されることはなく、どう言う仕組みなのかまた空から降ってくる。それがこのダンジョンだ。
とはいえ、それだけじゃあない。
このダンジョンも腐っても一級のダンジョンだ。空から降ってくる飴だけで終わるはずがなかった。
「はい正解。じゃあ次は浅田」
「ふふんっ、なんでもきなさい!」
なんでも答えてやるからどんな質問でもかかってこい! とでも言わんばかりのその様子に、ちょっといたずら心がくすぐられた。
「……じゃあ、ここには竜が出るが、なに竜だ?」
「え?」
ので、間違ってはいないが少し捻った、と言うよりも意地悪な問題を出してやることにした。
「え? ちょ、待って! りゅ、竜? そんなのいたの!? えっ!?」
思っていた質問と違ったからか、浅田は一瞬呆けた様子を見せると慌てだした。
「ほら、答えろー。さーん、にー、いーち」
「え、えっと竜? りゅう、ドラゴン……」
俺がカウントダウンを始めると、さらに慌てながらもちゃんと考え、色々と口にしているが、多分正解しないだろう。
「はい残念。時間切れだ」
「ちょ、待ってよ! 本当にここ竜なんていた!?」
「いるいる。嘘なんてついてないから調べてみろ」
浅田は答えられなかったことで俺が嘘をついてるんじゃないかって疑ったが、俺は嘘はついていない。ちゃんと『竜』はいる。それは『龍』でも『ドラゴン』でもないけどな。
「……やっぱいないじゃん。どこに竜なんて?」
「佳奈、佳奈。ここ。多分、これのことじゃないの?」
浅田がケータイを取り出しながら画面を操作して調べていくが、見つからなかったのだろう。不満げに俺の方を見ていたのだが、その画面を横から覗き込んでいた宮野が指をさして言った。
「え、これって土竜じゃ——あ」
浅田は最初眉を寄せていたが、途中で気付いたようでまたも間の抜けたような表情をした。
言ったろ、俺は嘘ついてないって。『土竜』はちゃんと『竜』だろ?
「いたろ? 『竜』」
「揶揄ってた?」
ニヤッと笑ってみせると、安倍が首を傾げながら問いかけてきたが……まあ、その通りだ。
どうせこいつらのことだ、様子を見た限りではモンスターについて調べてたみたいだし、こんなふざけが入っても平気だろ。
まあ、一応あとでちゃんと説明と確認はするけどな。
「あ、あんたっ……ほんと、マジで……喧嘩売ってんの?」
「はっ! んなもん売るわけねえだろ。お前と喧嘩なんてしてみろ。簡単に負けるわ」
俺とこいつが喧嘩なんてしたらパンチ一発どころか、デコトンされただけで後ろに吹っ飛んで頭を打つ。
ああでも、あれって愛情表現だったか? なら無しだな。デコトンじゃなくてデコピンにしておこう。
どっちにしても負けるってことには変わらないけどな!
「い、威張ることでもないような……」
北原が何か言ってるが、気にしない。俺は事実を言ったまでだ。
というか、単純な力勝負だと俺は北原にも負けると思うぞ?
「まああれだ、予習をしたからって調子に乗るなよってことだ。ダンジョンでは何が起こるかわからない。わかった気になって油断すんのが一番あぶねえんだからな」
「む、う……それは……ぬぐぅ……」
なんか微妙にずれた言い訳になってる気がするが、気づいてないみたいだし構わんか。
あ、でも宮野と安倍はなんだかおかしさを感じているようで首を傾げている。
「それよりほら、わかったんならこんなとこにいないで、こっちこい」
さっきはふざけたが、認識の共通と再確認は必要だ。
こいつらには必要ないかもしれないが、それでも少しでも死なない確率を上げるためにできることはしておいた方がいいので、しっかりと話はしておこう。
まあ、そこに誤魔化す意図がないわけでもないが。
「……あぶねえ、なんとか誤魔化せたな」
「聞こえてんのよ! 誤魔化すって、やっぱからかってたんじゃん!」
一発脛を蹴られた。痛い。
「いてぇ……」
「自業自得でしょ!」
浅田はそう言うと、プイッとそっぽを向いてしまった。
……まあ、実際のところを言うと、俺としてもこいつにどう接していいか測りかねてんだよな。
こいつの性格は以前の彼女にどことなく似てる部分があるから付き合いやすいし、普通に友人知人として接するなら問題ない。それどころか好ましいとすら思う。
ただ、それが友人知人で済まないとなると……はぁ。
色々と考えないといけないことがあるだけに、どうしてもこうおかしな感じになってしまう。踏み込みすぎるというか、気を許しすぎるというか……距離感を間違えてしまうんだ。
まあ、それはおいおい考えるか。
どうせ俺が考えたところですぐに結論は出ないんだ。そんなのは今までのことからわかってる。
だから、ゆっくりと考えることにしよう。
そう考えて俺はため息を吐くと、宮野達に向かって軽く言葉を交わしてからゲートの中へと入っていった。




