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三つ目の素材、採取完了

 

「でも地面にはこんだけあるじゃん。どっかしらの地面に塊があんでしょ?」


 小石があるのならそれを生み出している大元がある。そう考えるのは正しい。

 だが、そんなことを他の奴らも考えなかったと思うかというと、それは違う。


「じゃあ誰も見つけてないのはなんでだ?」


 みんな探してきたさ。だがそれでもチョコの発生源の大本は見つからなかった。


「溶岩の中?」

「三級の俺たちには採りに行けねえなぁ」


 安倍は溶岩の中に採りにいったのか、と言ったが、三級である俺たちが採りにこれたってことを考えてほしい。

 俺たちが溶岩の中なんて言ったら装備と一緒に体が溶ける。


 なので溶岩の中じゃない。


「地面じゃなくて壁とかじゃないかしら?」

「かべ……天井、とかはどうかな?」



 ならなんでこんな見通しのいい場所で見つけられなかったのかって理由は、チョコの発生源が存在しないのではなく、単純に人の手が届く場所になかったからだ。


「北原正解。まあ天井って言っても、あの鍾乳石みたいにぶら下がってるやつだけど」


 上を見上げると、天井付近が暗くなって見えるほど高くなっていて、そこにはいくつもの先端の尖った岩がぶら下がっているのが微かに見えた。


「あれがチョコの塊?」


 そう。多分だが、地面に落ちているチョコってのはアレが落下して砕け散ったものだと思う。


 そんな単純なことなら、ここで長時間採取作業をしている者達が気づくんじゃないかと思うが、人がいない時に落下するような仕組みにでもなっているのかもしれない。


 本当は単純に知っていても教えないだけかもしれないけど。他に知られたらチョコの値段が下がるしな。


 まあそれはどうでもいい。俺としてはこいつら以外に教えるつもりはないし、仮に誰かが漏らしたとしても俺には被害がないからな。


 ただ、後でこいつらにも教えないように言っておこう。じゃないとチョコの価値が下がった時に他の冒険者達から恨まれるかもしれないし。


「どうやって採りに行くのかしら?」

「ジャンプでもする?」

「佳奈、あそこまで跳べるの?」

「んー……微妙かも?」

「……攻撃する?」

「砕けちゃわないかな?」


 そんなことを考えている間に、宮野達はそれぞれ天井のチョコをどうやって落とすのか考えているようで、四人で話し合っていた。


「——で、どうやんの?」


 話し合いで結論が出なかったのか浅田が俺に尋ねてきた。ヒントはもうやったんだけどな。


「これ。この石使うって言ったろ? 浅田、ちょっとこれ持ってろ」

「何すんの?」

「いいから、ほれ早く」


 俺は持っていた冷氷石を浅田の手に渡すと、別の道具を取り出した。


「で、これに粘着剤をつけて……」

「わっ、ちょっ!? 手についたんだけど!」

「で、それを天井までぶん投げろ! ——あ、鍾乳石っぽいやつの近くを狙えよ」

「ちょっと、手についたこれどうすんの!」

「いいからさっさと投げろ。終わったら洗浄液渡してやるから」

「うー、ったくもう! 最初に説明くらいしてよ、ね!」


 文句を言いながらも、浅田は思い切り天井に向かって冷氷石を投げた。


 が……


「……おい、天井までぶん投げろって言ったが、石をぶっ壊せとは言ってねえぞ。力加減ってもんがあるだろうが」


 天井に向かって投げられた冷氷石は、天井に当たると音を立てて砕け散り、その粉を降り注がせた。


「し、仕方ないじゃん! どれくらい力が必要かなんてわからなかったんだから! それに咄嗟のことだったし——」

「ほら二個目。今度は粉砕するなよ?」


 そう言ってもう一つ冷氷石を取り出して浅田に向けて放ると浅田はそれをキャッチし、俺がもう一度粘着剤をつけると、浅田は先ほどと同じように天井に向かって冷氷石を投げつけた。


「どんなもんよ!」

「まだ終わりじゃないぞ。これからが本番だ」


 今度は砕けることもなく、チョコの鍾乳石の近くに着弾し、冷氷石は天井に張り付いてその効果を発動させた。


「これであと数分待ってると、あの冷氷石の周りのチョコが軟化して、落ちてくる。それをキャッチしろ」


 冷やされるとチョコが柔らかくなり、自重に耐えきれずチョコの塊が天井から落ちてくる。


 それが俺たちの見つけた採取の方法だ。見つけたって言っても偶然だけどな。

 マグマから出てきたモンスターの攻撃を躱してたら、その攻撃が天井まで届き、チョコが降ってきた。

 それが原因で、俺たちは天井のチョコに気づいたのだ。


 で、そっからは試行錯誤で天井まで冷氷石を飛ばして採取する方法を確立した。


「落ちてくるのを受け止めるって言ったら、佳奈がやるのかしら?」

「あたし? まあ、そっか。りょーかい。まっかせて!」


 力から考えるとやっぱそうなるか。


 だが、浅田は意気込んでいるが一つ注意しなければならないことがある。


「ああ、一つ注意だ。この時受け止める力が強すぎると壊れるし、逆に弱すぎると受け止めきれずに壊れる」


 そんな俺の言葉を聞いて浅田だけではなく他の三人もまとめて頷いたが、頷いたは良いものの受け止める係の当の本人はどこか気楽そうな様子だ。


 多分余裕だと思ってるんだろうが……まあ、失敗も経験だよな。

 どうせ何度でも挑戦できるんだから、一度くらいは……数度くらいは失敗してもいいだろう。


 そう考えてから数分後、とうとう冷やされたチョコが自重に耐え切れないくらいに柔らかくなったのか、なんの前触れもなく突然落ちてきた。


「きゃわあっ!?」


 それをキャッチしようと浅田が反応し、待ち構え、そして見事に——握りつぶした。


「……ぷっ。くくく……」


 柔らかくなったチョコを思い切り抱きしめて潰したことで、全身チョコまみれになった浅田。


 そんな等身大のチョコ人形みたいになった浅田を見て思わず笑ってしまったのだが、浅田は手の中に残っていたチョコの塊を無言で投げてきた。


「うおっ!? てめえ何すんだ!」


 咄嗟に投げられたチョコを避けたのだが、今回は俺悪くないだろ。ちゃんと注意もしたし。

 まあ、そうなるかもなと思って黙ってはいたけど。


「笑ってるからでしょ!」


 それは、まあ……。

 いや、でも……笑うだろ?


「……いいじゃねえか。それだけの量の温チョコを買おうと思ったら、十万は軽く超えるぞ」

「じゃあその幸せをあんたにもお裾分けしてあげる」

「御免被る!」


 そう叫んでも変わらずにチョコを投げてこようとしている浅田に手を向け、俺はその動きを制止する。


「まあ待て。まあ落ち着け。ステイだ、ステイ」

「あたしは猛獣か!」

「似たようなもんだろ」

「……じゃあ噛み付いてあげよっか?」

「いや待てって。ほら、洗い落としてやるから大人しくしてろ」


 これ以上は本気で怒られそうなんでやめておこうと、以前宮野が兎の体液を被って汚れた時みたいに、浅田に着いているチョコを魔法で落としていく。


「……今回は見逃してあげる。次は覚悟しなさい」

「なんだよその捨て台詞みたいなのは……」

「あのー、伊上さん……」


 悪役の捨て台詞みたいな言葉に苦笑していると、宮野が声をかけてきた。

 振り返ると、そこには浅田とは比べ物にならないが、それでも全身にチョコの飛沫を浴びていた宮野達がいた。


 まああの距離でチョコが弾けたんだったら浴びても仕方ないか。


「ん? ああ。お前達も洗ったほうがいいか」

「お願いできますか?」

「ああ」


 そうして宮野達も体についた汚れを洗い落としたのだが、正直無駄じゃないかと思ってる。

 だって何度か汚れる予定ってか、多分汚れるんじゃないかと思ってるし。


 まあ、この程度ならそんなに魔力を使わないからいいけど。


「それじゃあもう一回挑戦するけど……伊上さん。伊上さんたちも同じことをやって回収したんですよね? どうやって回収したんですか?」

「俺たちも回収したのは確かだが……聞くばっかりじゃなくて考えるのも経験だ。頑張れ」


 俺が応援の言葉を口にすると宮野達は四人で話し合いを始め、どうするか方法を決めたのか、何やら準備をし始めた。

 そして——


「どんなもんよ!」


 浅田が先ほどと同じように天井に冷氷石を投げた。

 それだけなら先ほどと変わらないが、その後は柔らかくなったチョコの塊に安倍が炎を放って、先端の方の一部だけを再び固めてから浅田が加減を弱めてキャッチした。


 チョコの固ささえしっかりしてれば、浅田なら普通に受け止められるからやったみたいだが……柔らかくしたものをもう一度固めるなんてよく思いついたな。


 俺の時は降ってくるチョコに俺が水を纏わせ、それを操って落下の速度を調整したんだが、こいつらはこいつらなりに考えたようで何よりだ。


 にしても、一回やり直しただけでクリアか。もう少し失敗すると思ってたんだけど……。


 前回といい今回といい、こいつらも結構成長してるんだな。


 その後は何本か同じように手に入れて帰ることにしたのだが、このまま塊を持って帰るとどこでどうやって手に入れた、とか聞かれるので、砕いて保存容器の中に詰め込んだ。


 これだけの塊を砕くなんてちょっと勿体無い気がするが、溶かして固め直せば大きな塊なんていくらでも作れるので気にするほどでもないだろう。


「じゃあ帰るか」


 そうしてチョコを大型の保存容器いっぱいに詰め込んだ俺たちは火山を出て雪原エリアを抜け、ゲートへとたどり着いて帰ってきた。

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