二つ目の素材、採取完了
「大変そーね」
「まあ、二人とも特級だからな。火力を出すのは得意でも、細かな調整は苦手なんだろ」
「ふーん……で、あんたはさっきから何してんの?」
浅田は二人から視線を俺の手元へと移すと、俺がやってることが気になったようで、そんなふうに問いかけてきた。
「ん? ああこれか」
だが、正直何かをやってるって言えるほど意味あるわけじゃないんだよな。ただの手慰みというかなんというか。
一応訓練にもなるが、俺にとってはもはや訓練としては意味がない程度のものだ。
「何してるって言うほどのもんでもないが、強いて言うなら暇つぶしだな」
「暇つぶしねー……」
呟きながら覗き込んだ先には、俺の手の上で小さな城を形作ってる水があった。
水は当然ながら俺が魔法で作ったもので、それの形を変えて遊んでいただけだ。
細かい物を作るんだったらそれなりに魔力の制御技術が必要になるので、こんな風に城を精緻に作るんだったらなかなかの技量が必要になる。
城だけじゃなくて動物なんかにも変えられるし、それを動かすこともできる。
自然な感じに動かすのは難しいが、空を駆けるウサギとか子猫とかだとこいつらにも人気が出るんじゃないだろうか?
だがこの行動に意味はない。
薄刃華の採取で魔力の制御に苦戦している宮野と安倍を見たら思いついたのでなんとなくやり始めただけ。
そんなことをするくらいだったら俺も採取を手伝えよと思うかもしれないが、それほどの魔力の余裕はない。
この程度の遊びだったら少し休憩してれば問題ない程度には回復するが、薄刃華の採取ってなるとちょっとの休憩では回復しないのだ。
だから暇つぶし。
本当ならこんな暇つぶしをするような長時間も採取をさせるつもりはなかったんだが、初めてでここまで来れたんだ。今日くらいは大目に見てもいいだろう。
まあ、そうは言っても採取時間が五分十分程度から三十分に伸びただけだが。
それ以上はギリギリどころか、本当に門限に間に合わなくなってしまう恐れがある。
「ま、それはいいけど……ってかさ、そもそもそれって食べられんの?」
浅田は今度は保存容器の中に入っている薄刃華を見てそう問いかけてきたが、まあそれも当然か。
ここにあるものは全て刃のような効果を持ってるんだ。そんなものを食べられるのか不思議だろう。
「ん? ああ、ほら」
だが正しい方法で取ると普通の花よりも硬いが、食べられないものではない状態へと変わる。当然刃も消える。
俺はそのことを実際に食べて知ってもらおうと思い容器から華を取り出すと、花びらを一枚千切って浅田に向けて差し出した。
そして浅田は俺が差し出した花びらをパクりとそのまま口に入れた。
「あん。……あんまし味がしないんだけど」
「……受け取って食べろって意味だったんだが……」
「? ……ッ!?」
俺の言った言葉を一瞬理解できないと言うように首を傾げた浅田だったが、数秒前の自分の行動を思い出したのか途端に体を跳ねさせて慌てだした。
「……北原もどうだ? そっちの二人も」
そのことに触れてやるのも可哀想だろうと、俺は他に待機していた北原と、今もなお花の採取を成功させようと頑張っている二人にも同じように花びらを差し出した。
「ほのかに花の香りがするわね」
「なんだろう? なんだか、面白い食感……」
「お菓子?」
表するなら花の形をしたウェハースと言える。
なんかお菓子を食べた時のサクサクもさもさしたようなそんな食感。
お菓子のウェハースよりも薄くて硬いが、基本はそんな感じだ。
元々は鉄すら傷つけるような刃だったことを考えれば、まあそんなもんだろうと思える。
だがまあ面白い食感ではあるが、似たようなものがないわけでもないし、それ単体で美味しいものでも、栄養があるわけでもないからあまり目立つ食材ではない。そもそも本来は食材として扱われないし。
雑草と同じだ。食べることはできても食品としては扱わない、みたいな。食べて害があるわけでもないんだけど、だからってわざわざ食べ物にしようとは思わない。
この薄刃華はそんなマイナーなものだ。見た目だけの花なら他にももっといいのがあるしな。
そもそも、このダンジョンは薄刃華を採取するためのダンジョンではない。一般的には防刃素材の採取のために来るような場所だ。
普通は薄刃華なんて、見た目が綺麗だねー、程度の評価しかないだろう。
なんで俺がそんなマイナーなものを知っているのかって言うと、先輩から教えられたからだ。
先輩って言っても学生の頃の先輩だとかじゃなくて、冒険者としての先輩だ。
俺たち三級冒険者で、なおかつ結構歳のいってる冒険者は、自分たちを守るためにそれなりに情報を共有している。
その中に、この場所で売り物になりそうなものを探して彷徨った冒険者の情報があり、それによって薄刃華の採取方法が分かったのだ。
「味はこの間のシロップやチョコをかけて食べるからな。一応食感も売りにならないでもないが、ぶっちゃけこいつに求めてるのは見た目だけだ」
見た目ってか、形だな。
どうせりんご飴みたいに蜜をかけて固まらせるんだ。形が良ければそれでいい。
りんご飴だって、ぶっちゃけ形だけで飴の味とか期待してないだろ。だって中身はリンゴのままだし。アレと同じだ。期待しているのは飴をかけた後の見栄えだけだ。
「つっても、見た目だけとはいえこいつがメインになるんだからしっかり集めろよ」
りんご飴やチョコバナナのようにして売るわけだが、この薄刃華はリンゴやバナナに相当する部分だ。これがなかったらただの蜜とチョコを売る羽目になる。
まあ、蜜もチョコもそれ単体でも売れないこともないかもしれないけどな。だって高級品だし。
「でも、これ結構難しいですよ」
宮野はこっちに振り返って不満げにしてるが、難しいだろうってのは分かってるし予想してた。
だがそれでもやるしかないのだ。
「だろうな。お前らからしたら蟻を踏み潰さないように踏む、みたいなもんだろ」
「伊上さんにとってはどんな感じですか?」
「俺か? 俺は、そうだな……人が懸垂して同じ高さで止まり続けるくらいか?」
「……ずいぶん違うんですね」
「そりゃあな。力の強さも量も違うんだ。精密さを求めるんだったら、そうなるだろ」
だが、精密な作業はそれなりに得意な代わりに、俺は宮野達のように何度も挑戦しても問題なし、とはいかない。
精々が十回挑戦できればいい方で、それだって休みながらか補充薬を使わないと無理だ。
後々帰ることも考えると、まあ五回がチャレンジ回数ってところか。
宮野達の場合はそんなことを気にした様子もなく何回も挑んでるけどな。
「まあ、元々今日はここまで辿り着けなかったはずなんだし、失敗したところでもんだいないだろ。訓練だと思って頑張れ」
それから十分もしたら一つも採取できずに不貞腐れた様子の宮野と安倍を連れて帰還したのだが、その後は魔力の制御を練習したようで、週の休みに二日連続で行ったことで成功し、必要な量は回収できた。
本当ならもっと時間がかかるものだと思ってたんだが、まさか森を焼いてリヤカーを持ち出すとは思わなかった……。
確かにその方法ならより多くの方法で運べるし、往復するのも楽に済む。
人がいるかどうかは確認したし、ダンジョン内の森なんてしばらくすれば復活するとはいえ……本当にまさかだったよ。
素材を保管してもらうためにヤスに用意してもらった業者に渡したのだが、その量にヤスから一度連絡があった。
あいつもこの早さと量は予想外だったらしい。
「あとはチョコと飴、だね」
「だねー。でも温チョコってどんなんだろ? 食べたことないんだよねー」
「そうね。普通に買おうとすると結構高いものね」
今回はこれで最後になるダンジョンから出てきた宮野達はそんなことを話している。
だが、高いって言っても、こいつらのポケットマネーから軽く買うことのできる程度のものだ。
何せこいつら一級の働きにふさわしく金持ちだし。……羨ましい。
「お前ら金はあるだろうに」
「お金はあっても感覚的に庶民っていうか、なんとなく高いのって買いづらいんだってば」
「倹約家、とまではいかないですけど、それでも一粒千円のチョコはちょっと高いかなって」
「そもそも売ってるところがこの辺にはない」
温チョコはその性質上店での直接販売じゃないと売れない。何せ常温で置いておいたら溶けるからな。
だいたい六十度くらいだったか? チョコが溶け始める温度は。
普通のチョコとは違ってそれ以下になると溶けてしまうので、普通には売れない。
いやまあ、売れないこともないんだが、その場合は液体として売ることになるので、まともにお菓子として食べたい場合は、液体のチョコを買って自分で温め直して調理するか、店で買うしかないのだ。
「あんたは食べたことあんの?」
「あるぞ。まあ俺も買ったんじゃなくて自分で採りに行ったんだがな」
「そう、なんですか?」
「やっぱ自分で食べるため?」
「何が『やっぱ』なのかわからないが、違う。金になるからだな」
あそこはよかったな。高級品だから採りに行ったんだが、アレは結構いい金になった。
モンスターの難度もそんなに高くないし、準備さえしてれば比較的に安全に稼げた。
その分ダンジョンがめんどくさい、ってか長居したくないくらいに熱いからもう一度行きたいかって言うと、できれば行きたくないと答えるがな。
あの時は、裏技を使って無駄に高級品を採りすぎて他から不満が出てるって話をヤスから聞いたからそれ以上はやめた。
市場のバランスって大事だとその時に学んだのだ。
今回は市場に流さないし、一時的なものだからそれほど文句を言われることでもないだろう。と思う。
「へえ〜。まあそれはどーでもいいや。で、肝心のチョコはどんなだったの?」
「そうだなぁ、たこ焼きみたいなもんか? 熱いのを口の中で転がしてると溶ける。味は普通だな。いや美味しいんだが、極端に苦いってわけでも甘いってわけでもない……まあバランスのいい味だ」
って言っても、あれは味はともかくとして食感は実際に食べてみないとわかんないだろうな。
「その辺は実際に食べてみればわかるだろうし、次の楽しみにしておけ」
そうして俺たちは二つ目の素材の回収を終えて、素材を業者へと引き渡すと帰路へとついた。




