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プロローグ2

私は君の声を、思い出せない。もう一度ききたいと願ってもそれは二度と叶うことがない。あんなに好きだったのに、時間が経つというものはあまりにも悲哀に満ち、残酷だと常々感じる。

覚えていることといえばどんな歌でも悲しそうな歌声で歌っていたということ。別れの歌はもちろんのこと、世に対して意見する歌も、これから始まるであろう恋の歌も、今が1番幸せだと叫んでいる歌も、夢を追いかける歌も。聴いている私には全てが悲しく、心臓を誰かに握られているかのような息苦しさを感じさせる。本人は全く理解していない様子だったが。どれほど明るい歌でも悲しく感じることに対して、違和感はなかった。むしろ、本質はそこにあるのかと錯覚させるほど私の心の奥底に響くものがあった。

そんな歌声をしていたからだろう。私は思わず声をかけてしまったんだ。

男性の好みの中に"歌が上手な人"が入ることなどなかった。強いて言えば自分はお世辞にも上手とは言い難く、それを聴かせるのは恥ずかしいという感情を持ち合わせていた。だからか、歌が下手な人の方が気が楽かな、くらいの気持ちでいた。でもまぁ、若かったのだ。あの頃は。そういうことにしておいて欲しい。というよりも、あの歌声に惹かれない方がどうかしている。そもそも、今の私であれば歌が上手とか見た目が格好良いとか運動ができるとか、外見より中身が大事だとこれまでの短い人生で薄々気がついているのである。いや、もちろん彼は中身も素敵でしたけれども。


そうこう考えているうちに30分という時間があっという間に過ぎ、最寄り駅についた。彼氏もいなければ一人暮らしなもんで、帰ったところで誰かにおかえりと声をかけてもらうこともない。仕事が終わり、疲れ切った体で料理を作ろうかという気力は残っていなく、家の近くのコンビニでおにぎりを2つ買って帰る日々。桜が舞う4月5日。この日が来るとどうしても彼の面影を追っては感傷に浸る。もう少しだけ、昔の話をしても神様は許してくれるだろう。私は今日、29歳の誕生日を迎えた。

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