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プロローグ

「君の悲しそうに歌う声が好き」

そう言って悲しそうに笑う君を、僕は、君の方が悲しそうだよと、伝えることはなかった。



帰宅ラッシュで人々が鬩ぎ合う。忘れ物を取りに戻るため、人が溢れかえっている道を逆流していく。前に進むにも一苦労しながらやっとの思いで駅を抜けた。その先から聴こえてくる、今流行りの切ない愛のうたを歌う声に、無意識のうちに耳を澄ませてしまっては、

「楽しそうに歌う人たち」

と言葉が漏れる。仕事終わり、何かを探し求めては今日も東京のビルの光が犇めき合う中を彷徨う。


帰路に就く。部活終わりの高校生だろう。学ランを少し着崩している男がイヤホンを通して音楽を聴いている。爆音だからなのか、満員電車のせいで私と彼との距離が近いからなのか。

「どうか幸せになってよ僕のことなんか忘れてさ」

恥ずかしげもないストレートなワンフレーズが聴こえてくる。これもまた、世間を騒がせている失恋ソングだ。

"どうか、お幸せに。"

そう願って離れて行ったのは私からだった。紛れもない事実のはずが嘘であってほしいと願う。この矛盾したやるせない気持ちに名前を付けるのだとすれば、きっとこれは嫌悪に近いものだろう。

黙っていなくなった私を、許してくれるだろうか。そんなことはもう忘れて、幸せに暮らしているのだろうか。それはそれで、私が勝手に願ったことなのだから悪くない。そう勝手に思い込み、勝手に安堵する。どうか、お幸せに。

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