正解率は4分の1
巷では、血液型占いが流行っている事を雄介は知っている。血液型からその人の性格を判断したり、十通りの組み合わせから二人の人間の相性を占ったり。
信じるとか信じないとかの話ではなく、それらには意味が無いと雄介は理解していたし、興味も無かったが、探究心はふと湧き上がる。
(何型だろう)
とは春佳の話である。これまでに色々な話をしてきたが、お互い血液型の話はしていなかった様に思う。
「春佳って何型?」そう聞けば一番手っ取り早いのに、雄介はそんな考えすら抱かない。血液型別性格判断とやらを駆使し、自力で春佳の血液型を当ててやろう。また一つ、解くべき難問が雄介の意欲を駆り立てた。
〜A型の性格その1『責任感が強く、自分が一度やると決めたことは、少々の困難があっても粘り強くやりとげる』〜
春佳と雄介は、学校での所属学級が違う。それ故、互いに知っているのは日々の登下校時の姿や時折廊下で見掛ける程度のもので、普段どんな学校生活を送っているのかはあまり分かっていない。
(でも、結構真面目だし意外と合ってるかも)
雄介は、春佳と一緒に登校しているにも関わらず頭の中は血液型の事で一杯だった。
(とにかく、これは判断材料が足りなすぎる。他だな)
雄介は携帯の画面を縦にスクロールした。
〜A型の性格その2『和気あいあいとした雰囲気を大切にする』〜
これは、ちょっとそうかもしれない。雄介の期待感が高まる。春佳は誰にでも気さくに話し掛けるし、話に聞く限りでは同姓からも異性からも好かれているという。
〜A型の性格その3『自分のほうから積極的にアプローチすることはほとんどない』〜
結論、A型は論外。雄介は期待外れだという様にサイトのトップページに戻った。
一度も話した事の無い自分を友人経由に呼び出し、いきなり告白してきた女の性格ではないと、雄介が判断するのは当然だった。
〜B型の性格その1『フィーリングで恋をするため一目ぼれが多く、出会ったとたんに相手にのめり込む』〜
その考えで行くと、これは合っているかもしれない。雄介は再び正解への期待を抱いた。
〜B型の性格その2『明るい性格で、あまり人の好き嫌いにとらわれることがないので友人の幅も広い』〜
まさしく、春佳の性格を述べているように思えた。ちょっとうるさい程に明るく、誰からも好かれている。
今も、雄介がほとんど反応を返さないにも関わらず、何やら一人で楽しそうに喋っている。
〜B型の性格その3『一度気に入らないことがあるとやる気をなくし、人が変わったように怒ったり落ち込むことがある』〜
少し、雲行きが怪しくなる。これは春佳には当てはまらないように思えた。
(まあ……そもそも、これに信憑性があったとして、それでも全てが当てはまるって訳でもないんだろうからなあ。その他に書いてある事は結構当てはまるし、B型なのかも)
しかし、その下に
『恋に落ちるのは早いが、熱しやすく冷めやすいタイプなので、恋愛回数も多い』
と書いてあるのを見て、雄介はB型のページを閉じた。
〜AB型の性格その1『おしゃれでスマートな雰囲気があるので異性によくもてる』〜
まあ、そもそもAB型は候補の内に入っていなかった。世間一般に言われるAB型のイメージというものは雄介の耳にも入っていて、それは春佳の持つそれとは到底かけ離れたものだったからだ。
〜O型の性格その1『人と人のつながりを大切にするため、友人がたくさんいる』〜
これはまさしく。再び正解へと一歩前進する。
〜O型の性格その2『自分が損しても相手のためならと、頼まれると何でも引き受けるほどの社交性を持っている』〜
(あるかも)
雄介は少し可笑しくて笑った。引き受けると言うより断れないと言った方がしっくり来るのだが、そんな風にあれこれと引き受ける春佳の姿が容易に想像できた。
〜O型の性格その3『どちらかと言えば聞き役より話し手になることが多い』〜
今の状況はまた別なのかもしれないが、一応当てはまっている。
普段を考えても確かにその通りだと雄介は思った。これは、いよいよ正解かもしれない。
〜O型の性格その4『追いつめられると動揺し、ガタガタに崩れることがある』〜
(こ、これは……一体どうなのか。そういう状況を見たこと無いから分からないが、これは少し違う気が)
それは、雄介の持つ春佳のイメージとは違った。
(だが、となると結局どれも当てはまらないと言う事に……)
恐らく、B型かO型。だがその正解を春佳に直接聞く訳にはいかないし、聞きたくなかった。
(流石に、B型だったら気分悪いよな)
血液型別の性格判断というものは、雄介自身理解している様に全てが該当するという事は無いし、あくまで一つの指標である。分かっていても、「熱しやすく冷めやすい」と言われて良い気分がするはずもない。
「春佳」
「ん? 何?」
「俺の血液型、何だと思う?」
何となく聞いてみた。春佳の話が途切れたのと、春佳は自分をどう考えているのかが気になったから。
「ん〜」
春佳は上を見上げて唸った。雄介も、まさか即答できるとは思っていない。
しかし、また雄介の方を向くと、春佳はすぐに答えた。
「AB型かな?」
雄介はそれを表に出す様な事はなかったが、内心驚いていた。
「……凄いね。何で?」
すると、春佳は照れ臭そうに笑って言った。
「私、AB型の人と相性良いから!」
雄介は、目を丸くした。
胸の奥から可笑しさがこみ上げてきて、堪え切れずに笑みが零れた。
「何さ?」
春佳が頬を赤くする。
「いや、別に」
雄介はそう言うと、また自転車を漕ぎ出した。
それがO型だと雄介が知るのは、あと少しだけ後の話で――。
今回の話は書くのに苦労しました。
血液型の話を書くのがここまで大変だとは。
初の試みですが、自分以外の人に見られた時にあまりにも恥さらしな出来になっていないか不安です。
ああ、不安。
企画に参加するのも初の試みで、まだ話を何も考えていないのも不安。