天才の恋愛
辻丸雄介は、天才だった。
いや、それはあまりに聞こえが良すぎるかもしれない。天才と言うよりは天才肌、と言うより一般人とは違った考え方をする男、と言うか、変人だった。
「良いよ。こちらこそよろしく」
彼は、未成年の惚れた腫れただのなんてのはせいぜい将来の為の社会勉強程度にしか考えていない。だから、告白されればそれがどんな相手だろうと承諾するし、場合によっては自分から告白しても良い。それが、今年十七歳になった雄介が自ら設定したルール。
「本当!?」
今回雄介と付き合う事になったのは、滴草春佳、同学年。客観的に見て、容姿はそこそこ良い様に思える。地で茶色いショートヘアーに可愛らしい小柄。まあ、黒髪だろうがロングヘアーだろうがゴツイ大柄だろうがどの道付き合う事に変わりは無いのだが、一応可愛らしいに越した事はない。
これで、高校に入って何人目の彼女だろう。不必要な事に雄介の容姿も良かったので、こうして度々告白されている。
「んじゃ、さっそく今日から一緒に帰ろうかね」
「うん!」
雄介の無愛想な言い方にも、春佳は満面の笑みを以って応えた。
――春佳という女は、雄介の目から見ても少し変わっていた。何がと言われると明確には答えられなかったが、少し面白い事があると非常に甲高い声で笑うし、趣味が多少ズレている様な気がするし、根本的な話になるが、どことなく、他とは違う雰囲気を持っている様な気がした。
(何だろう?)
雄介は、考えた。ここでこの解答を曖昧なまま良しとするならば、社会勉強の意味が無い。何故他とは違った雰囲気を感じるのか。その答えを、はっきりとした解答として雄介は求めた。
髪が茶色いから? いや、春佳の場合は地毛だが、別に髪の色で先天的か後天的かは問題とならない。
背が低いから? いやいや。髪が短いから? だから、春佳以上に背の低い女子とも春佳以上に髪の短い女子とも雄介は付き合った事があるんだってば。
肌が白いから?
(お、これは少し答えに近付いた気がする)
春佳は白く、綺麗な肌をしていた。これは、雄介もあまり見た事のないものだった。
(でもなあ。もう少し、はっきりとした答えがある気がするんだよな。言動とか、外見とか、そういう話でなくて、もっと明確な何か……)
と、自分の世界で考えに耽っている雄介の目の前で、春佳がヒラヒラと手を振った。
「ちょっと。聞いてる?」
高校の放課後、帰路を共にしている二人は肩を並べて自転車を漕いでいた。
雄介はなんとか、直前に耳元で流れていた言葉を拾い繋げた。
「あ、ああ。ごめん、本棚の話だっけ」
春佳は、安心した様にほっとして話を続けた。
「そうそう。お母さんたら、サイズ考えないで買ったから部屋に入りきらなくって、仕方なくリビングの方に――」
春佳の話に、あまり興味は無かった。関心を持てない話をだらだら聞くだけというのは退屈で、雄介は適当に頭に浮かんだ質問を投げ掛けてみた。
「春佳のお母さんって、何て名前だっけ」
別に、親の名前なんてどうでも良いんだけどさ。
「エイダ。お母さん、カナダ人だから」
一瞬、雄介はまた自分の世界に戻った。
(あー……、それで)
望みの解答を得た雄介は、以後鼻歌交じりに自転車を漕いだ。
久しぶりに筆をとります。
また一から頑張りたいと思います。
至らない箇所だらけですが、どうかよろしくお願いします。