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セロの夢

 「どうやって使うかと言われても、魔力を使う要領で使うとしか言いようが無いのですが……」

 ?

 「魔力ってなんですか?」

 と、尋ねると、

 「「えぇぇ~!」」

 周りの人達からも驚かれた。

 それ位魔力とはこの世界ではポピュラーな物らしい。

 「神気が使えて魔力を知らないとは出鱈目ですね……」

 ざっと説明して貰ったが、魔力とは人の持つ生命力そのものの力の事らしく、使用すると寿命が縮む。

 一度や二度使ったからといって、大して減る訳では無いが確実に減る。

 しかし、この世界では、当たり前のように魔力が使われていて、縮んだ寿命こそが正しい寿命、という解釈が成り立っている。

 逆に長生きすると軽蔑されそうだ。

 火を熾したり、川の水を浄化したりといった日常的なものから、攻撃や防御といった戦闘に使用する物まで多種多様だそうだ。

 「魔術を使わないとは、かなり特殊な地域の出身ですね」

 はい、異界からやってきました。

 「父さんは魔力を使いきって命を落としてしまったんだ……」

 えっ、それはつまり、メガ○テのような命と引き換えにする危険な魔術を使用したということか?

 「敵を道連れにする様な、強力な魔術もあるのですね」

 「いえ、ロブが使ったのは、ごく普通の結界を張るだけの魔術でした……但し、その規模は途轍もなく巨大で、敵の全てを吞み込みました。それをロブは……ロブは我々が逃げ切るまでの間、命が尽きるまで張り続けたのです」

「話を聞く限りロブさん、て強いんですよね?それがなぜそのような足止めの魔術で、命を落とすような事を……」

 「ロブは強いです。本気であれば神人にも劣りません。しかしロブは他の命を奪うことを快く思っていませんでした。食べる為、生きる為に仕方の無い事だと頭では理解しているのでしょうが、それに行動が伴わないというか……今回も相手を攻撃する事はありませんでした。その結果……」

 俯きながら「ふう」と息を吐くネイトさん。

「湿っぽくなってしまいましたね。レイさんには魔術の基礎的な事から学んで貰う必要がありそうですね」


 それから、フランと一緒に魔術の基礎訓練をする事になるのだった。

 とは言ってもフランはとても優等生らしくフランが魔術の基礎を復習する為に、おれの事を教えるという形に成っていった。

 フランは教えるのがとても上手だったが、おれはいっこうに魔術が使えない。

 「レイにいちゃんごめんね。教えるの下手で……」

 違うんだフランちゃん。おれが馬鹿なだけなんだ……

 ん?

 そういえば神様が何か言っていたような気がするが……

 そうだ!

 おれの中の神人セロは普通の神術は使えないと言っていた。

 という事はひょっとして、普通の魔術も使えないという事か?

 思わず体育座りでうずくまってしまった。

 よしよしと頭を撫でるフラン。

 その優しさが痛いよ……

《なさけないのう……》

 ん?

 今のはなんだろう?

 《ホンに情けないのう、おぬしは……》

 これは……セロの記憶なのか?

 夢を見ている最中に目覚めた時のような曖昧な感覚で上手く認識できない。

 夢と、現実の境が曖昧だ。

 しかし、起きたまま夢を見るとは受け容れ難い感覚だ。

 と、夢は勝手に続いていく……

 《セロ、おぬしはこんな所で、まだ何も始まっていないと言うのに、諦めてしまうのか?》

 《諦めるというか、俺ではもう、どうすることもできない》

 《それを諦めるというのではないのか?》

 《はん!神術もろくに使えない俺に、これ以上どうしろっていうんだ!これ以上どうあいつに対抗しろというんだ!》

 おれ(セロ)の視界には巨大な黒い龍の姿が映し出されている。

 ドラゴンというよりは龍と表現する方がしっくりとくる、水墨画にでも出て来そうな長い胴体をした龍だ。

 細部はあまりゴテゴテしておらず鎧でも装備しているように滑らかな感じだ。

 その龍が軽くため息を付くと優しい口調で話しだす。

 《よいかセロ。おぬしは神術が使えぬのではない。使える術がおよそ常識からかけ離れている為、使用が困難なだけじゃ。コツは掴めてきておるのであろう?あと少しの辛抱じゃ》

 《あと少し?その間にもあいつは着実に力を着けていく。あの装置もいずれ完成しちまう。もう、手遅れなんだ》

 《ふう、困ったのう……》

 と、場面が一瞬で切り替わった。

 今度は仲間数人と話をしているようだ。

 先程の巨大な黒い龍の姿は無い。

 《だから言ったであろう?あと少しの辛抱じゃと》

 と、人を食った様な笑みを浮かべながら、長い黒髪の美しい女性がおれ(セロ)に話し掛けてくる。

 この女性、さっきの巨大な黒い龍だ。

 《ちぇ、カーラにはかなわないな。でもさ俺が術を使えるようになったのは、バステのおかげなんだぜ》

 おれ(セロ)は傍らに居る猫の頭をした女性?に目配せする。

 《いえ、わたくしはほんのきっかけにすぎません。最初から付きっきりでセロの事を見ていたのはカーラ様ではありませんか》

 バステは頬をひくつかせながら、無理に笑顔を作るカーラに怯えているようだ。

 《まあ良いでは御座らんか。セロ殿も戦力に加われば何とか彼奴にも対抗出来ましょう》

 ケロッと今度は蛙の頭をした侍風の男が仲介に入ってくる。

 《ま、そういう事だ。カーラにも本当、感謝してるんだぜ》

 ふん、と顔を赤らめながらそっぽを向くカーラ。

 そしてまた場面が変わる。

 もうもうと煙が立ち込める中、所々に人や人成らざる者が倒れている。

 おれ(セロ)の腕の中には血みどろのカーラが苦しそうにしている。

 《セロ、わし等のことは放って置け。御主だけでも逃げるんじゃ》

 《ふん、これは元々俺とあいつの問題だ。むしろこんな事におまえ達を巻き込んじまって悪かったな》

 《ごほっ、何を言うておる。これはもはやおぬし等だけの問題などではない。この世界の命運が懸かっておるのだぞ》

 《それでも俺は、お前の死ぬ所なんか見たくない》

 セロがカーラを強く抱きしめる。

 《馬鹿者。わしは不死者じゃぞ。たとえこの体が滅びようとも、いずれは復活するのじゃぞ》

 《それでもだ!》

 セロの手にさらに力が籠る。

 《カーラ、お前の力、貰うぞ》

 セロはカーラの頭を抱きかかえ、唇を合わせた。

 カーラから唇を通して力が伝わってくる。

 カーラを抱くのとは別の手でセロは術を使いだす。

 まだ息の有る仲間達に結界を張っていく。

 《な、セロおぬし何時の間にこのような術を!》

 《じゃあな》

 結界内の仲間達がどんどん消えていく。

 《そのような術も使えたのですね。セロ》

 遠くに佇んでいた男が話し掛けてきた。

 傍らには巨大な白い龍が佇んでいる。

 カーラとは対象的な純白の龍。

 《随分と余裕じゃないか。クレオール!》

 《貴方さえ逃がさなければあとはたいした問題ではありません》

 眉目秀麗。その言葉から連想する人間をそのまま形にした様な男が淡々とした口調で話す。

 《あなただけは……逃がしません》

 《そう簡単に殺られはせん!》

 おれ(セロ)の視線がどんどん上昇していく。

 視界に映る腕が龍のそれに変わっていく。

 《クレオール!!》

 セロが物凄い勢いでクレオール等に迫り行く。

 一瞬、光に包まれたかと思う間も無く鋭い衝撃に包まれる。

 セロの巨大な龍と化した身体が徐々に崩壊していく。

 《ちぇ、二人がかりとはずるいじゃないかよ……》

 《さよなら……セフィーロ兄さん……》

 消え行くセロを見つめるクレオールの瞳には何の感情も映し出されはしなっかた……


 ぶはぁ、と勢い付けて起き上がると頭に強い衝撃が。

 どうやらおれの事を覗き込んでいたフランに頭突きをかましてしまったようだ。

 「ごめん!大丈夫か?」

 「いてて、ぷっ、だ、大丈夫。いきなり倒れるから、し、心配したんだよ」

 「ああ、それはすまなかった。心配かけてごめん……」

 ん?何かみんなの様子、おかしくないか?

 中には必死に笑いを堪えている者もいる。

 これはひょっとして……

 近くに停車している機械蜘蛛に自分の姿が映りこんでいるのが見えた。

 そこには顔中に落書きをされた自分の姿があった。

 「フ~ラ~ン~」

 「あはははは、レイ兄ちゃんごめんねー」

 「まぁてえ~ゆるさんぞ~」

 みんなが笑い転げている中、おれは不安でしょうがなかった。

 クレオール。

 あいつが異変の原因で間違いないだろう。

 あんな化物におれは戦いを挑まなくてはいけないのか?

 セロの仇を取ってやりたい気持ちはある。

 しかし、この、何でもない、このおれが勝利できる相手なのだろうか?

 いかん、気持ちだけでも前向いてなきゃ、この場にへたり込みそうだ。

 何も不安材料ばかりでもない。

 あの夢の中に術を使うヒントが何か……

 無い!

 何も無いぞ!

 異変の原因は何となく解った。

 しかし、しかしだぞ!

 術を習得する所だけスッポリ抜けてたじゃないか!

 本当にその場にへたり込みました。

 「レイ兄ちゃんだいじょうぶ?」

 戻ってきて不安そうにおれの事を覗き込むフラン。

 「うふふー、つーかーまーえーたー」

 がっとフランの腕を掴み、そのままグルグル回しの刑にしてやった。

 「あはは、おもしろーい!」

 フランの笑顔を見ていたら何だか元気になってきた。

 くよくよしてても始まらない。

 明日もがんばるぞ!


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