神様のアースクレイ講座
数刻後、レイの枕元に佇む神様。
「色々と不手際があり申し訳ありませんでした。目の前にぶら下がった野望にすっかり目が眩んでしまいまして……」
え、今野望って言った?
初めて見た時は薄ぼんやりとしてシルエット位しか解らなかったが、今は割りとしっかり認識することができる。
女性で間違い無いようだ。
「ごほん、え~今更なのですが、この世界の事を必要最低限ですが説明したいと思います」
ほっ、これでなんとかなる……なんとかなるんだろうか?
神様の説明によると、この世界は三層に分かれた大地により成り立っており、現在、我々がいる大地が地上世界、遥か上空に天上世界、地底には地下世界が広がっているという。
大地は球体ではなくどこまでも続く平地。
宇宙は存在しない。大地があるのみ。
大地は中心の山から生み出され、外側に向けてどんどん広がっている。
広がり続ける大地。それがこのアースクレイということだ。
しかし果てというものも存在するらしく、その先で大地は崩落していき、やがて“無”に帰るという。
「果てまではどれくらいかかるのですか?」
ふと疑問に思い尋ねてみると、光の速度で一日位だそうだ。
……とりあえず広いってことだけは分かった。
この大地に住まうものたちは皆、大地と共に果てに向かい流されていくことになる。
「となると町どころか家すら建てることも出来そうにないですね」
再び尋ねてみると、人々は変動の少ない大地、もしくは全く動かず安定した大地を見つけ、そこに定住し子を産み、育て、そして死んでいくということだ。
それでもその大地自体は果てに向かい流されていってしまうそうだ。
プレートテクトニクスが平面上で、しかもかなり短期間で起こっている、そんな解釈で正しいだろうか。
天上世界と地下世界については大きさもそれほどではなく、広がりもしないらしい。
そして話に度々でてきた“コウ”。
“コウ”とは光でありこの世界における力の源だという。
“コウ”は天上世界より溢れ、地上世界を照らしている。この存在の為に神様はアースクレイへの直接介入を阻害されているそうだ。
そこで神様に代わって異変を調べる為の代理人が必要になったということだ。
触媒と成る存在がなければアースクレイには思念体といえど留めて置くことは出来ないらしい。
そして神人。
彼らは天上世界に住まう住人で“コウ”を身近に浴び続ける事により地上人よりも高次元な存在へと変質していった存在だという。彼らは“コウ”より得る神気を使い様々な術を行使するという。
「彼らの行使する術はとても強力です。中には我々神々の行使する奇跡(言っていて恥ずかしいらしい)に等しいものも存在するといいます」
ん?何やら神様がもじもじしている。
「神様、どうかしたんですか?」
「自分のこと神とか、何か照れる……」
そういうもんか?てっきりトイレかと……
「トイレではありません!」
心を読まれた!
「つまり神人の魂を付与して貰ったおれにも術が使えるということですね!」
「ん~、使えるには使えるのですが、あなたの中にある魂は少し特別でして……ぶっちゃけまともな術は、ほとんど使えません」
衝撃の新事実!
「あなたの中に宿る神人セロは特殊な神人でした」
これはいわゆるチートというやつか!
「自力で術をほとんど使えませんでした」
そんな特殊性欲しくなかった……
「しかし彼には、他の生命から生命力を貰い、自らの力として行使することが出来たのです」
「それはつまり、強い相手から力を貰えば、それだけ自分も強くなれるという事ですね!」
その問いかけに、神様はいささか渋い顔。
「そうとも言えるのですが、生命力を貰うには条件があるようでして、万能という訳でも無かったようですね」
「その条件というのは、どんなものですか?」
「わかりません!」
答えは自分で探せ、という事か?
「とは言え、なすすべ無し、という訳ではありません。まずは“コウ”を感じ取り、神気を蓄えてみて下さい」
なるほど、確かに“コウ”なるものを、感じ取らなくては始まらないな。
「セロの魂の中には、セロとは異なる強力な生命力も感じました。何かのキッカケでそれが目覚めるかもしれません。その辺りを意識してみるのも、良いかもしれませんね」
このままではキャラバンにとってもお荷物だし、何か役立つ事を身に付けなくてはいけないしな。
そう言えば、肝心な事を訊いてなっかたな。
「あの~この世界の異変についてなんですが……」
「あっ!もうこんな時間!私はこれで失礼しますね。夜更かしはお肌に悪いので」
逃げやがった。