誘われてアースクレイ
私、ハザマレイと申します。
今年で六十五歳になります。
今春、定年退職を致しました。
生憎と子宝には恵まれず一年前、妻にも先立たれてしまいました。
天涯孤独の身。
なんとはなしに終活でもと身辺整理を始めた折、ふと思うことがございました。
妻のことはとても愛しておりました。
ええ、おのろけでございます。
快濶な、見目麗しく、私の様な者には勿体無い女性でした。
ええ、それはそれは夢の様な毎日でした。
しかし、こうして終わりが近づくにつれ、妻とは別に、月並みではございますが胸の奥に燻ぶる淡い炎にも似た、この感情にも目を背ける事が出来ないでいるのでございます……
子供の頃、胸に抱いた冒険心。
いつから失くしてしまったのだろう。
大人になるにつれて失われてしまったドキドキ、わくわくした日々。
もう一度でいい。
胸躍るような想いがしたい……
そんな折、一通の手紙が私のもとに届きました。
差出人は神様。
ええ~?
内容はと言うと
“異界に住まう方々がとても困っています。
今こそあなたの力が必要です。
是非!
あなたの力を御貸しください。
お返事まってます。
成否は返信封筒にて。
草々。”
新手のキャッチか?
だがしかし!
それでも私の心は昂ぶっていくのを抑えることができずにいるのでした。
寄る辺の無い孤独な身。
たとえいたずらや詐欺だったとしても、誰に迷惑を懸けると言う訳でもない。
人生最後のサプライズとしては、なかなかどうして面白そうではないか!
同封されていた返信封筒に返事を書きポストに投函。
数日後、枕元に神様がひっそりと佇んでいたのでした。
薄ぼんやりと光を放つ人型の物体は、少し照れたように自らが神であると名乗りました。
肩まで伸びた髪や、全体的に柔らかめなフォルム、声色からは女性的な印象を受けます。
異界に誘われる私。
ふと、気になった事を口にする。
「この家の管理とかはどうなるのでしょうか?」
「えっ!気になるのそこ?」
神様は語ります。
「あなたはアースクレイの神人との相性が良く、今回の問題を解決するのにピッタリなのです。いえいえ、決して適当にばら撒いた手紙に、あなた一人しか返事をくれなかった、という訳ではありません」
……異界に神様からの手紙で誘われる……
確かに私もどうかしていたようだ。
んっ?
神様が何かぶつぶつと呟いているようだ……
「……ここで決めてやる。この先何百年もこの仕事を続けるなんて耐えられない……私には、私にはやりたい事があるのよ……」
ええ~
かっ神様……
更に説明は続きます。
どうやら私にはアースクレイに対する適応力があり、しかも神人まではいかないまでも“コウ”を吸収し扱う事が出来るようでした。
アースクレイ?神人?“コウ”とはいったい何だろうか?
さらにかつてアースクレイに在った神人の魂を付与して頂けるというのです。
「まあ、魂を付与するといっても記憶や精神まで塗り替えられるような類のものではありません。あくまでも能力やその機能を補助すると言った程度のものですのでいたって安心です。メリットしか考えられないような素晴らしい代物なのです」
揉み手しながらえへえへ笑っている。
私には解らない用語が多すぎてどこからツッコンでよいのやら見当もつきません。
それでも私の答えは一つしかありません。
「是非も無し」と。
「お受け頂き、感謝いたします。それではまず、魂の付与をいたしましょうか」
神様の手の平が輝きだしたかと思うと、その光を神様は自らの腕ごと私の中へと捻じ込んでくるのでした。
最初は驚いたものの何も変わった様子は無い。
あからさまに何かが変わる、という事はないようだ。
「では早速まいりましょうか」
パッと場面が変わったかと思うと、下に落ちて行く様な感覚。
「あれぇ~?」
と言う神様の声が、ドップラー効果と共に、遠ざかっていくのでした。