始まり2
(ああ、何で自分はゴブリンなのだろうか。他の種族は襲うし不潔だし、どうしてゴブリンなんかに)
そんな自分の生まれを呪うかのように、ゴブ朗は壺の中で頭を抱えながら身を潜めていた。
(自分も見つかったら絶対に殺されるに違いない。ばれないようにしないと・・・)
だが、ゴブ朗の願いもむなしく壷が傾き、勢いよく転がり始める。
(???ああぁぁぁ!?)
壷が壁へとぶつかり、中に入っていたゴブ朗が外へと放り出される。
かなりの衝撃が彼を襲い、逃げるどころか動くことすら儘ならなかった。
何人かの話し声が聞こえ、その後に弓を構える音が耳に飛び込んでくる。
自分の最後は弓矢なのだろう。迫り来る死の恐怖の中、せめて自分を射ぬく相手の姿だけでも見ようと、恐る恐る目を開けてみる。
その目に映ったのは美しい女性の姿だった。
色白の肌にピンっとした耳、そして何より気品に溢れたその姿。
(ああ、何て綺麗で格好いい女性だろう。最後にこんな素晴らしいエルフに出会えたんだ。自分の生まれに少しは感謝しようかな)
そう考えていると、ふとエルフと目が合った。
?少しばかり動揺しているように見える。何か気になることでもあったのだろうか。
そんな彼にエルフが近付いていく。
(ここまでか・・・来世はゴブリン以外でお願いします!)
淡い願いを抱きつつ、強く目をギュっと閉じた。
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・?
何も起こらない様子から、そっと目を開けてみる。
驚いたことに先ほどのエルフが自分を覗き込んでいた。
不思議そうに自分を観察しているエルフと目が合う。
途端、エルフが何かに驚き慌てている。
(何に驚いているんだろう?やっぱりエルフから見ても僕は異端な見た目なのか・・・)
悲しい気持ちになりながら、エルフの様子を窺っていると、彼女の仲間が自分の側に集まり、同じように自分を覗き込みはじめる。
やはりエルフと同じように驚いている。そんなにおかしな見た目なのだろうか。
その証拠になにやら全員で叫んでいる。
人の言葉がわからないため、ゴブ朗には何を言っているのかわからなかった。
(わからなくて良かったのかもしれないな。わかったらもっと悲しくなってたかもしれないし・・・)
しばらくすると体格の良い男が縄を取り出し、伸ばし始めた。
(ああ、絞め殺されるのかあ・・・苦しいかなあ?いっそ楽に死なせてほしかった・・・)
男が近付くと、ゴブ朗はグッと力強く目を閉じた。
キュキュ、キュキュ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・苦しくない。
生きてる・・・?
どうやら縄は絞め殺すためのものではなかったようだ。
(でも、キュキュって音がしてたような)
ゆっくりと目を開けてみる。
縄はゴブ朗の手!足!にしっかりと巻かれていた。
??????
状況がわからずに固まっているゴブ朗を、体格の良い男がヒョイっと持ち上げ、肩にのせる。
そのまま何事もなかったかのように、ゴブ朗と共に彼らはその場を後にしたのだった。