神が俺を作るとき
当麻アキラの朝はごく普通に始まる。
六時くらいに起き、トイレに行き、顔を洗い。また腕の線が増えているなぁと思いながら着替えて、朝食を取る。リュックを肩に掛け、玄関で運動靴を履いて、まだ僅かに涼しい外の世界に足を踏み出す。
マンションから少しのところに探偵事務所件喫茶店がある。
名前は喫茶「十三夜月」
アキラは、インテリメガネから預かっている合鍵で店の扉を開ける。開店準備やら仕込みを始めなければいけないからである。
「んっ?」
小さな違和感がある。
鍵が開かない。いや、空いていたのか。逆に閉めてしまったようだ。
「かけ忘れか?」
普段はないことだが、店長が俺より早く出勤して仕事をしている可能性ある。
「おはようございます」
中の様子を伺いながらアキラはドアノブを回して入る。
「店長?」
まだ薄暗く店の中はよく見えない。スイッチ入れて、明かりを灯す。
瞬間、パッと明るくなり店内の様子が分かる。インテリメガネがそこにいる。いるが、なにか不自然だった。木造の床の上にうつ伏せに寝ころんでいたのだ。不自然過ぎる。
何よりおかしいのは、インテリメガネの体から赤黒く染まった液体が広がっているからである。どう見てのケチャップではない色だった。思わず体を触る。
「店長?」
冷たかった。
「死んでる?」
伸ばされた指の先を見てみると、赤く染まった指から文字らしきものが絵が描かれていた。そこには、ミーちゃ……と書かれているように見えた。そして、ハッとする。
「ミーちゃんがいない」
俺はいつも店長よりもこの店に早く出勤しているが、俺よりもミーちゃん早くに出勤しているのだ。そのミーちゃんの姿がどこにもないなんてありえない。
「嘘だろ」
こう言うしかなかった。
昼には店の周りにテープが張られ、警察官が何人もやって来た。そして、何度も何度も同じ事を聞かれる。そして俺も何度も何度も同じ事を言う。
「やってません。殺したのは俺じゃない。ミーちゃんだってそうです。店長とミーちゃんは俺がここで働く前から仲だし、そんな、まさか殺人だなんて何かの間違いです」
俺はメトロノームのように繰り返す。
「だけどね、君」
刑事が俺に何かを言いかけたとき。
「俺じゃないって言ってるだろ!!!!!!!!」
警官達に抑えつけられ、男が暴れている。
「店の前をうろついていたと近所の住民から通報がありました。調べたところ、ミーさんにしつこく付きまとっていた。女性をとっかえひっかえして恨みをかっていたとうい証言がとれました。店長と彼とミーさんの間で痴情のもつれがあったと思われます」
「誤解だ!!!!!なんかと言ってくれよ、アキラ!!!!!」
俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃が全身を駆け巡った。
「嘘だろ、リョウたん……」
こんなの嘘だ嘘に違いない。誰か夢だと言ってくれ。
まばゆい光が俺を包む。
暖かいふっかふっかの布団の感触だ。んんんん??????
「ゆ、ゆめ?」
ビビッったわ。
急いで俺はベットから飛び起きる。顔を洗い、服を着て、とりあえず店に向かう。
夢ならいい。夢ならいい。
でも本当に?
確認をいや、安心するためにアキラは走る。
鍵を開けるが、緊張でうまく手が動かない。
あ、あいた。
「おはようございます、店長……」
そこにはいつものようにインテリメガネの姿があった。
なぜかリョウたんの姿も。
「えっ?」
「ショートコント。神がアキラを作るとき」
突然何かが始まる。
「まず平凡な知能を与えます。そして、お料理の才能を少々、あとコーヒーマスターの称号を」
「そして、そこにメガネを少々…」
「なんでやねん!」
そこでリョウたんの突っ込み。
「ここにルパンと探偵の才能をあああああああああああああああああああああああああ」
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
こぼしたちゃいました。
「まっいっか」
「ああああああああああああああああああああああああああああ!よくねぇよ!わざとだろう!!!!」
「ハッ!!!」
雀の声が聞こえる。クシャクシャになった布団の上に俺はいる。暖かい布団の感触。
「二段オチかよ……」
もう今日は会社休みたい。
そんな思いを抱きながらアキラは仕方なく起き上がるのだった。