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魔女の座



 スッと青い目の魔女は足を上げて、満月の魔女から離れた。

 そして、声を掛けた私に向きなおる。

 「あんた、誰よ」

 「私?高丘リカコだけど?」

 おどけて答える。

 「はっ?」

 少し驚いたように私を見た。

 「やめてよね。偽りの姿とはいえレイカちゃんの姿をした魔女を暴行とかありえないから」

 私は強気に言ってみる。

 そこにはは呆然とした満月の魔女と呆れた様子の青い目の魔女がいた。

 場違いなのは重々承知でやって来た。

 何故この場所がわかったのか。それは私が探偵だからである。いや、今は関係ないな。うん。

 地を這うような低い冷たい笑い声が響きわたる。

 「リ、リカコ。逃げて」

 怯えるように、困惑した様子で満月の魔女が私に呼びかけた。


 「クックックックック、あ~お腹痛い。逃がすかよ、お前もこいつも血祭だよ。探す手間がはぶけたぜ。高丘リカコ?だっけ。人間の分際でいい度胸だ。それだけは誉めてやるよ」

 髪をかきあげ魔女は青い目をつりあげた。

 どうやら私は標的になってしまったようだ。

 まぁ、元々なのでどうでもいいが。

 「いちよう聞いてやるぜ、何しに来た?」

 凄んでも怖くない。私は無職だ。失うものなどない。

 「いちよう頼んでみるけど?今回ことは見逃してもらって、あなたは自分の町に戻るってのはどうかしら?」

 少しの沈黙。

 「クックク、てめぇ、ふざけてんのかよ!!!!!!!!!!!」

 どうやら魔女を怒らせてしまったらしい。

 うん、わかってた。


青白い手が伸ばされ、指先を私に向けられる。

 パァァァァァァァァァンン。

 風船が割れるような。でも思い重低音。

 頬にかまいたちのような風圧を受ける。

 「うっ」

 すぐ後ろにあった。大きな木々達がそこだけ不自然にくりぬかれたように消えている。あたりには細かく裂けた木々が散らばっていた。

 「どう?これが魔法。人間なんて瞬く間に死にいたる」

 私は地面に真っすぐに立って静かに言い放つ。

 「なぜ、殺さなかったの?」

 「決まってるじゃない。余興よ、余興。私は人間の恐怖に歪む顔が大好きなの。ほら、泣いて、叫んで、命乞いしてごらんなさいよ。アハッハハハハハハハハ」

 「命乞いなんてしない」

 強く私は言った。

 青い目の魔女は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 「図太い女ね。わかったわ、今すぐ殺してあげる」

 またその手を上げて私に伸ばそうとするが、それは阻まれる。

 「や、やめてよ。彼女はただの女の子よ。見逃して!!!!!!!!」

 必死になって満月の魔女がしがみつく。

 「うるさい、離せ!!!」

 振り払われた魔女は、小さな悲鳴を上げて尻もちをつく。

 「お前から殺してやるよ古参の魔女!!!!!!!」

 指先は満月の魔女に向かった。

 

 そして、今度は少しばかり小さな重低音。

 辺りは静まり返る。


 「私言ったよね?やめてよねって?汚い手で触るなって」

 今度は私が冷たい視線を向ける。 

 青い目の魔女に。


 「えっ?」

 彼女は理解できただろうか。

 その指に。

 その腕に。

 その肩に。


 無数の鋭い木々の破片が突き刺さっていることに。


 「なに?これ?」

 数秒遅れて悲鳴を上げ、魔女は無様に地面を転げまわる。

 「何?何って、さっきあなたが砕いた木々だけど?」

 「何したの?何したのよ?」

 キィキィ甲高い悲鳴が聞こえる。

 「あんたと同じことよ」

 私はそう言いながら魔女に近づいていく。

 ほのかな月の光に照らされて歩いていく。

 そして彼女のまえに立つ。

 「ほら、命乞いしてごらん」


 その顔は初めて恐怖を知ったような顔だった。

 「あ、あんた何?誰なのよ?」

 

 私は、ただの無職。怠惰をたくさんむさぼって喰らい尽くした。

 別になんでもない。ただの高丘リカコだ。


 「別になんでもないわ」

 「でも、そうね。満月の魔女、青い目の魔女、そういう言葉に当てはめるなら」

 まるで空気が静かに凍るようだ。

 私は美しく月夜に微笑んだ。




 「私は無限の魔女」






 

 


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