運命の行方
そこには呆然とした私とアキラくんがいた。
きっと彼は私のためにトラックの前に飛び出してくれたのだ。
ズボンがズルむけで、膝から血を流していた。
「わ、私、いつも通りでいいって言ったよね」
慌てて立ち上がり近づいて、そっと手を握ってみる。その手は小さく震えていた。
「……から」
「えっ?」
「いつも通りだよ。いつも通り、コーヒー入れて働いていた。だだ普通に、お客さんの忘れ物を届けに来ただけ。リカコさん、忘れ物してたからね」
「今朝?何か忘れた?忘れ物なんかしてないよ」
「忘れてたよ」
「なにを?」
「またねって言ったけど、また月曜日にとは言わなかった。そんなの今日でお別れみたいじゃないか?」
「それは、どうなるかわからなかったから。そうでしょ?」
「でも、リカコさんは忘れたよ」
「何を?」
アキラくんは私の目を見て強く答えた。
「明日を忘れてた」
「えっ」
そして、私の手を強く握り返す。
「死んでしまっても幸せって顔してた。だから、きっと明日を忘れてると思って君に届けに来た」
「だって、それが運命なら覆せないかもしれないし」
「覆せるよ。だってリカコさん辛い毎日を頑張って生きてきたんだから。それなら、奇跡が起きるって」
「たいしたことなんて何もしてこなかったのよ」
「重みがあるよ。リカコさんの生きてきた日々はに奇跡に値すると思う。だから僕は手助けしたいと思ったんだ。これくらいのこと魔女も多めに見てくれるよ、きっと」
静かに涙がこぼれた。
とても小さくてすぐに消えてしまったけど。
「お姉ちゃん!!!!!」
レイカちゃんが私に飛びついてきた。
「よかった、生きてる!!!!!!」
そして、わんわん泣いて私の首に抱き着いてきた。
「レイカちゃん、有難う。有難うね」
私達三人はしばらくそこから動けなかった。
夕焼けは溶けてすっかり、夜があたりを包み込んでいく。
「送ってこうか?」
「ううん、ここでいい」
私は振り返り、アキラくんとレイカちゃんを見た。
「また、月曜日に十三夜月で会いましょう」
そして、にっこりと笑った。
乗り切った日曜日。
私の中で何かが変わったような気がした。
いえ、私の中には何かが生まれたようだった。