サイコロの行方
日曜日。朝ごはんは食べなかった。
アキラくんは少し悲しそうな顔をしていたような気がした。
私は一週間お世話になった十三夜月を後にする。
「じゃあ、有難う」
私は笑う。
「本当にこれでいいのか?」
アキラくんは小さく聞いた。
「うん。これでいいの」
いつも通りの日常に戻るんだ。
アキラくんは従業員。店長さんは出張。リョウたんはバイト。レイカちゃんは学校。ミーちゃんは留守番。そして、私は無職の高丘リカコに戻る。
私が頼んだ、いつもどおりの日常を。
「またね」
「ああ、またな」
アキラくんは諦めたように微笑んだ。困ったような笑顔がおかしかった。
また君に会いたいな。
何度も何度もサイコロを振った。良い目が出るのを永遠と待った。
でも、もうそれは止めた。もういい。もういいんだ。本当に欲しかったのはチャンスじゃなかった。暗い所にいつの間にか落ちてしまった私の心を動かす勇気が欲しかったのだ。
何度も繰り返した怠惰な日常を普段通りに送った。そして、私は日が暮れるのを待った。
頃合いをみて私は向かう。
あの日、あの時、私が死んだ場所に。
交差点で止まって信号を見ていた。
いつも通りをお願いしたレイカちゃんが遠くから歩いてくる。
私になんとなく目配せした様子だった。
チカチカと信号は点滅して赤に変わる。
私はそれを見た瞬間、走った。人生でこんなに走ったことがないくらい早く。
思いきり手を伸ばしてレイカちゃんを押す。トラックは私のすぐそばまで迫ってきていた。
やはりギリギリだった。
直撃は免れそうだがどちらにしろ無理そうだった。
ああ、ちょっと悔しいな。
うそ、凄い悔しい。
その時、体がグンッと浮いて飛んだ。
突き飛ばされたような衝撃だ。
「いっ、だ!!!」
思い切り顔面を道路に擦り付けた。
急ブレーキの音が響き渡り、トラックが勢いをつけて私の横をすり抜ける。
一体何が起きたのか。
でもすぐにわかった。
すぐ隣に同じようなまぬけな恰好で転がっているアキラくんがいたからだ。