私を信じて
もう長いことひとりでいた。
焦りと怠惰と諦めと絶望と、そんな感情達とずっと一緒にいた。
そんな私に声を掛けてくれる。励ましてくれる。手を差し伸べてくれる。そんな夢みたいな光景がここにあった。
だから私は、明日死んでしまってもとても幸せだった。
テーブルを囲むみんなの声が聞こえる。レイカちゃんの差し入れを楽しそうに食べているリョウたん。迷惑そうにしながらもコーヒーを入れているアキラくん。カウンターで澄まして髪をかき上げている店長。隅の方で静かに座っているミーちゃん。
とても暖かい光景だった。
本当はそこにいたいな。明日が終わってしまっても、私もそこにいたかった。
きっと私は死ぬだろう。それが運命だというならば悔いはなかった。
本当に楽しかった。この一週間は私の宝物みたいにキラキラしていたから。
レイカちゃんがマドレーヌを食べながら作戦を立てていた。
「私の能力。男の目を意識して見つめて操ることができるわ。マインドコントロールのようなものね。時間は半日持たないのだけど、これを使ってトラックの前に人のバリケードを作って私とお姉ちゃんにぶつかるトラックの衝撃を軽減するわ。どうかしら?」
「どうかしら?じゃないレイカちゃん。日曜の惨劇だよ。血の海になるよ」
アキラは淡々と答えた。
「ねぇ、店長?店長?何してんの?」
店長はカウンターで長い鞄を出して開けた。
「まぁ、子供の作戦だな」
そして、きらめきながら語り出す。
「私の作戦はこうだ。この密輸入した猟銃で、トラックの運転手の頭をドッカンだ。そしてトラックは大破。ジ・エンドだ」
「ジ・エンド。じゃないわ。殺人、それは警察に捕まってジ・エンドだ」
アキラは店長の胸倉を掴む。
「はい、俺。次々!」
リョウたんは勢いよく手を上げて。誰も何も言わないうちに作戦を立てだした。
「俺の元彼女なんだけど、陸上選手で超早い。だから、トラックにぶつかりそうになったら全速力で走ってレイカちゃんとリカコちゃんにアタックして安全なところに押し出す」
「その彼女は?」
「音信不通」
「殴るぞ」
アキラは深い溜息をついた。
「そういうアキラはどうなんだよ」
リョウたんは不服そうに不満を述べた。
「ないよ。ないから困ってるんだよ」
ふふっ。思わず声が漏れた。
「リカコさん?」
「採用。リョウたんの作戦はいい思う。あの時、内緒だったけど少し足がすくんだんだ。私は陸上選手じゃないけど思いっきり走りきってれば、トラックには当たらないかもしれないわ」
「そんなのただが数秒の違いだ」
「でもね、アキラくん。それが私には自然に思える。それなら魔女も多めに見てくれるような気がするわ。状況は何も変えたくない。変えない。たった数秒だけどそれに賭けるわ。もしかしたら怪我だけですむかもしれない。それなら私は全力で走るわ、ね」
にっこりと私は安心させるように微笑んだ。
私はちっぽけだ。だから何も変えられない。
運命を変えるほどの力もない。
それでも変えたいと思うから。
せめて私は、私をかえる。