スタンドバイミー
土曜日の朝は差し入れのホットレモンティーとマドレーヌ。
それは朝の唐突な出来事だった。
思わず手が止まる。
「れ、レイカちゃん?」
居候とはやはり肩身が狭いもので、何か落ち着かない。最近はアキラくんの出勤前に、こうやって看板を出したり店前を掃除しているのだ。
そこに現れたのは、もう言葉を交わすこともないと思っていた女の子だった。
「お姉ちゃん」
「?記憶があるの?日記は?」
凛とした声が帰ってくる。
「日記は読んだ。読んで思い出した。だから私はお姉ちゃんを助けたい」
「ど、どうして?」
私は驚いて声がひっくり返る。
「私がお姉ちゃんを呪いにかけた。ごめんなさい。でも私はもう逃げない」
ああ、この子はすごい強い子だ。
この子に会えてよかった。
そう私は思った。
「呪いなんかじゃないよ。私には魔法だったよ」
そう勇気の出る魔法だ。
呪いじゃなかった。
「有難う、私に会いに来てくれて。すごく嬉しい。だから、私も私の運命から逃げないよ」
そっと微笑みリカコは彼女の手を取る。
「十三夜月にようこそ」
新しい仲間を店に招き入れる。
たわいもない毎日を繰り返す朝だった。
それをもうずっと長いこと続けてきた。
でも今日は特別に幸福な朝だった。




