死の克服
木曜日。
茶会を開いた。
満月の魔女と紅茶とビスケットを揃えた茶会。
どうすればいいか?
そう。私がトラックの前に飛び出さなればいい。お姉ちゃんは私を助けない。簡単な答え。
「私は日記を読んで、過去の自分の行動を知っている。それでは駄目なの?」
もう一人の私が答える。
「駄目ね。運命を変えることを心よく思ってないものがいる。確実に殺しにくる。たとえば、そのトラックの方から突っ込んでくるかもしれないわ」
「でも、やらないよりはいい。遠回りしてでも道路の近くを避けるわ。邪魔しているのは魔女なの?」
「ええ」
彼女は苦虫を踏みつぶしたような顔をした。
「隣の町の魔女よ」
「勝てないの?」
「勝てない。私は弱い。だからあの魔女のゲームに乗った。高丘リカコを生かして、見逃してもらうの」
レイカは息をついた。
「でも、諦めないわ。出来る限り自分の身は守る」
「あの魔女の事だから、直接的にリカコを攻撃するかもしれないわ」
「諦めないで。弱くてもあなたはこの町の魔女よ。出来ることを私に教えて」
「そうね。もう魔法は使えないけど。魔法陣や護符を使って魔除けをしましょう。守りを高めることは可能だわ。あとはこのゲームに負けたらもう一度頼んで……。いいえ、涙ながらに懇願してみましょう」
私は少し笑った。
「それは嫌だわ。なにがなんでも勝たなくてはね」
満月の魔女もクスリと笑う。
私はビスケットを砕いて、紅茶と共に流し込む。
「ねぇ、私のお願い覚えてる?」
「ええ、一つ目は両親の不仲の解消。二つ目は異性に好意を持たれる。三つめは時間を戻す」
私は面白いことを考えていた。
「その異性に好意を持たれるというのはどの程度?」
「そうね、目が合えばしばらくはあなたの虜よ。まぁ、あなたは意図すればだけれど」
「つまり、洗脳のようなことができるのね」
「まぁ、悪くいえば……。嫌な笑顔ね、魔女みたい」
「いいじゃない、あなたは私の鏡のようなものなのだから。あなたの代わりに笑ったのよ」
ふふっとレイカは小さく笑う。
その日もとても美しい満月の夜だった。




