あなたと未来を
水曜日の夜。
月は美しく水面に揺れていた。
今日まで私は満月の魔女に会ってない。
いつもちょっかいをかけられて、お菓子を食べたり、冗談を言ったり。最初はこわいと思った。でもね、一緒にいたからわかる。彼女は良い魔女だ。だだ純粋に友達が欲しいと思ってる。私も友達がいなかったからわかる。ひとりぼっちの友達のいないもの同士。何かが引き合わせた。
それは運命だったにちがいない。
彼女に会ってから私は幸せだったと思う。でもこの数日、違和感を感じる。そう、私だけが幸せ。
そんなことってあるだろうか。
私は何かを忘れてる。でも誰もそれを教えてくれない。
彼女なら教えてくれるのだろうか。
「そこにいるのでしょ?クッキーを持って来たわ」
彼女には会ってない。でも、ずっとそばにいると感じていた。
だって彼女は魔女だけど、私の友達だから。
私は一枚クッキーを手に取って口にいれる。サクッと崩れる音がする。
「はやく来ないと食べちゃうわよ」
しばらくして風がゆれる。
そして、私が現れる。
「その姿はいい加減やめにしない?別に本当の姿でもいいじゃない」
指先がクッキーを摘みあげる。
「わかってないわねぇ、レイカ。魔女には威厳が必要なのよ」
「あっそう。美味しい?」
「まぁまぁね」
「あなた私に何か隠してるでしょ?」
「隠してるとしたら?」
「教えて」
「教えるわけないじゃない。私を誰だと思っているの?」
そうだ。彼女は魔女だ。
「私の友達。だからきっとあなたは教えてくれる」
「教えるわけないじゃない」
「どうして?」
「不幸になる。後悔して、あなたは悔やむ」
「そうね。あなたが隠してるくらいだから、私は何か過ちを犯した。きっとすごく後悔して、悔やむ。でも、悔やんでも償いたい」
「いま幸せなのに不幸になるの?」
困ったように魔女は笑う。
「ええ、私に償うチャンスを頂戴」
「この幸せを壊すの?」
「私だけが幸せな世界はつまらないと気が付いたから。私は、あなたにも笑って欲しいの。満月の魔女は私の友達なんだから」
彼女は悲しそうに微笑んだ。
「バカね」
そして、私に日記を手渡した。
これはきっと運命だ。
乗り越えるべき運命だ。
私は強く日記を握りしめた。