未来の君と
火曜日はフルーツケーキ。
今日はアキラくんに教えてもらいフルーツケーキを焼きました。その残りを朝食に。ホイップクリームと紅茶も用意した。
「ん~っ。美味しい、アキラくんはいいお婿さんになるね」
「それはどうも。それよりいいですか?こんなことしてて」
「いいの、いいの。一宿一飯の恩義です」
私はエプロンを外した。
にわかには信じがたい話を十三夜月の皆さんは信じてくれた。
とりあえず、帰るのは危険ということで私は住み込みのミーちゃんの部屋に泊めてもらい翌朝を迎えた。何もしないのも悪いので店の掃除やら料理やら手伝っていた。
「それよりアキラくんも大変ね。一人でこんなにいろいろと」
「まぁ、細々とやってる店だからまわってるようなものです。ところで今日は家に帰るんですよね?」
「ええ、服とか貴重品とか何も持ってきてないから。でもリョウたんが戻ってきたらだから大丈夫。二人ならなんとか帰れそう」
本日は通常運転。店も営業中。代わりにメガネ様とリョウたんが調べに行ってくれている。本当にいい人達だ。そんな人達に会えた私は幸せものだ。
「私幸せだな」
「えっ?」
アキラくんが私を見た。
「いやね、不幸ではあるんだけど優しい人に巡り会えるのって稀なことで。いままでこんなに人を頼ったことってなかったなって。どこか冷めててただ流されてた」
無職になったもの自分のせいだし。魔女に呪われたのもなんか運が悪かったなで終わってた。終わることもできなかった。ただ、ただ楽な方に流されていた。
「でも今はどうにかしたい。踏みとどまってもう流されたりしない」
私は笑った。
「恨んだりはしないかった?」
「生きてるんだもの。人を恨んだりもする。私ね」
「?」
「ちょっと、レイカちゃんを恨んだこともある」
少しだけ本音。
「でも、いつも私も前に現れた。雨の日も風の日も暑い日も。私が行く日も行かない日もずっと来てくれた。私の折れた心が戻るまで待っててくれた。だから私は今頑張れるのかもしれない」
「そうか。レイカちゃんっていい子だな」
アキラくんは笑った。
「うん、もし生き延びられたら駅前のケーキ屋さんの美味しいシュークリームを一緒に食べるんだ」
物欲はそんなになかった。
服もアクセサリーも靴もいらない。
でもそんな明日が欲しいなと思った。