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アキラの場合



探偵という仕事をご存知だろうか?


ドラマの迷宮入りの事件をかっこよく解決したり、なぜか殺人事件に巻き込まれたり。じっちゃんの名にかけちゃって真相をあばいたり。

 とにかく何かかっこいいアレだ。

 しかし、そんな憧れを抱きながら探偵になってしまうとがっかりする。なぜなら基本的に、浮気調査が主な仕事だったりするからだ。


「がっかりすぎるだろう」

 小さいため息をつく。


 そう、俺こと当麻アキラも理想と現実の差に落胆していた。

 古びたレトロ感漂う小さな喫茶店。俺は毎日コーヒーを入れていた。カタンッと僅かに音を立てて、テーブルにカップを置いた。そのカップの取っ手を持ちあげる男。

 「柔らかな香り。ほどよい苦み。澄み切った色。なかなか様になってきたんじゃないか。アキラくん?」

 インテリメガネの少しクールな上司がコーヒーを味わいながらキラキラ微笑む。

 「有難うございます。確認なんですが、俺の仕事は探偵なんですよね?」

 「もちろん」

 フフッとメガネは笑う。

 「いや、普通に喫茶店の店員なんですけど?」

 インテリメガネがテーブルに肘をついて答える。

 前髪を無駄にかきあげながら。

 「よく言うだろ?探偵はバーにいるってね」

 キラリと白い歯を見せる。

 「いや、喫茶店だろ」

 「ねぇ、知ってる?バーの店員が全員探偵なんてこともあるんだぜ」

 「いや、バーじゃないし」

 少しメガネが曇った。

 「アキラくん、いいかい?僕らは弱小、少人数の探偵事務所だ。そんなことができると思うか?出来ない。つまりこれはカモフラージュだ。表向きは喫茶店という隠れ蓑をかぶり、裏は探偵として華麗に街を暗躍するのだよ」

 「明らかに逆なんですけど。全面的にもう喫茶店経営なんですけど?隠れ蓑っていうか、完全に探偵事務所の方が隠れちゃってますよね?今月の依頼ありました?」

 「まだ八月は始まったばかりだよ、アキラくん」

 「わかりました。じゃあ、前月の依頼ありましたか?」

 インテリメガネが少し顔をしかめる。

 「こまかい事はいいじゃないか」

 苦しそうな言い訳に聞こえる。

 「そうですか……」

 「そ、それに給料はキチンと出してくるだろう?」

 「はい、有難うございます。俺がおはようからおやすみまで、馬車馬のように働いた喫茶店店員としてのお給料は振り込まれておりました」

 自分で言ってて虚しくなるわ。




 

 憧れを抱いて探偵になったはずなのに、浮気調査どころかだだの喫茶店の従業員になってしまっていたことに今改めて思い知る。


 「不満げな顔をするな」

 「不満げな、と言うか不満なんです。むしろ詐欺だと思ってますよ、店長」

 「オーナーと呼べ、オーナと。その方がかっこいい。そして、今日もうあがりだ。あとは、ミーちゃんに任せて帰りなさい。ミーちゃんは君と違って文句なんて言わないぞ。謙虚な姿勢を見習べきだな」

 「まかせて大丈夫ですか?」

 今度は不安げな顔で聞く。

 「ああ、もう夕方だしな。あとね、ミーちゃんはお前の先輩だぞ。ミーちゃんさんくらいの敬意を示しなさい。上下関係は大切だぞ。僕、ミーちゃん、アキラくんだ。わかったな」

 諦めに近い小さな溜息がでた。


 「じゃあ、本当に帰りますね。大丈夫ですか?」

 「ああ、帰れ帰れ」

 「そんなこと言うと明日来ませんよ?」

 「お願いします。アキラくん来ないとコーヒー入れる人がいないんです。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします」

 「わかりました。そして、うざいです」



  

 今日もよく頑張った俺は、両手を伸ばしながら息を吐いて伸びをした。

 ふと、自分の腕を見た。


 黒い線が一本増えて、二本になっている。

 

 んっ?んんん?

 なんだこれは?










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