始まりのプレリュード
実は薄々思っていたことがある。
考えたくはなかったので、考えないようにしていたことだ。
繰り返す日々の始まり日の前の出来事を。
最後に見たのは赤く染まる夕焼けとトラックのライト。
聞こえたのは少女の悲鳴と急ブレーキの音。
勢いよく体が宙に浮く、夕焼けがとても赤く美しかった。
赤かったのは、もしかしら自分だったのかもしれない。
ぼんやりとした意識の中で私は思った。
ああ、私死ぬのかもと……。
「日記を燃やしてもらいたい」
そう言うと彼等は目を丸くした。
「初めて言うんだけど、たとえ時間が戻っても私死ぬんです」
「えっ?」
認めたくはなかったが、事実なのだ。
「マジか、リカちゃん」
ほんとに受け入れがたい事実である。
「よくよくことの発端を思い出してみたら、私死んでたの。死んでなくて虫の息だったわ」
完全に私は開き直った。
「今まではなんとなく夢か。夢だったのでは?夢だったらいいなと思ってんだけど。死んだと思うと繋がってくる感じがするの。そうでしょ?」
ポッキーを摘みながら私は苦笑いする。
「つまり、レイカちゃんはあなたを助けようとした。でも予期せず繰り返しが始まってしまった。ということか?」
アキラくんが唸る。
「そうね。私だって、とっさの願いごとなんて、止めてとか戻してになると思うから」
「生き返らせてじゃ駄目だったのか?」
リョウたんがすかさず聞いてくる。
「それが一番いいけどな。咄嗟に口にはでないかもな。調べたところ満月の魔女ってのはあまり強い力を持ってないんじゃないか?偶然とはいえ小学生が呼び出せる程度の魔女だ。叶える願いも基本的には、たわいのないものばかりだ。人の生き死にとかは無理だったんじゃないか?」
「だから、とりあえず戻れ!みたいな?」
リョウたんは首を傾げた。
「それがなんかループぽくなってしまった原因だと思うな」
リカコは溜息を吐く。
「繰り返しは戻せないなら、せめて理由だけでも知りたかった。何も知らないままなんて、理不尽にもほどがあるわ。でも、もう諦めもついたかも。だって、この繰り返しがなくなれば月曜日に死んでるんだから。それなら繰り返しの日々の中で、小さな幸せを探しながら静かに生きてみようかなって」
「本当にそれでいいんですか?」
アキラが問いかける。
「うん」
「リカちゃん、ネバーギブアップだぜ。また月曜日に頼みに来いよ」
「ん~、ん。でも月曜日に信じてもらえたことないからいいの。でも、心残りがあるの。レイカちゃんがいつまでも私のことを覚えていたら可哀想だなって。だからその日記をレイカちゃんから取り上げて欲しい。私のことを全部なかったことにしたいの」
シンッとみんなが黙り込む。
「いや、こんなこと聞くのもなんだけど。レイカのこと恨んだりはしないのか?自分だけが苦しむんだぜ?」
「おい、リョウタやめろよ」
「恨まない。絶対に」
それは、自信を持って言える。
「私のためにもう十分なくらいレイカちゃんが苦しんでくれたことわかってるの。だから安心して日記を燃やしてしまって下さい。お願いします」
リカコは深々と二人に頭を下げた。
「わかった。その依頼、俺は引き受ける」
「マジかよ。アキラ」
「有難う」
安心したように、私は微笑んだ。