引き換えの罪
土曜日。
喫茶十三夜月は定休日だ。
たまにある定休日。普通の客なら、すごすご帰ると思うが私は扉を開けた。なぜなら私は常連さんだからだ。
もう何十回目だろうか?この扉を開けるのは。
「お邪魔します」
突然の来客に机に座っていた男二人が、こちらを見る。
どうやら何かを相談してたような雰囲気だ。
私は中に入り、二人に近づく。
「はじめましてのアキラくん。私もそのポッキーをもらってもいいかな?代わりにケーキを買ってきたので」
本当に場の空気を読まずに私は乱入した。
いいじゃない。
だって今日はもう土曜日。あと一日しかない。あとの祭りだ。みんなで、お別れパーティでもしょうよってノリで来てしまった。
「座ってもいい?」
「ど、どうぞ。えっとはじめまして、リカコさん」
もう何周目か思い出したくもないが、アキラくんは対応に困っったように苦笑いしていた。
今週は、はじめて会うアキラくんだった。
「リカちゃん、どうしたんだよ?」
「いや、土曜日だから。諦めて、みんなとパーティでもしようと思ってね」
そう言って私は腰を下ろす。
「レイカちゃんも誘ったんだけど、家族でお出かけみたい。リョウたんは?」
私はおどけて笑って見せた。
「二人でリカちゃんを助けるために円卓会議をしてたんだよ」
「それって、私がタイムリープしていることを信じてくれたってことかな?」
ケーキの箱を広げながら、私はアキラくんにお皿とフォークを催促する。
アイコンタンタクトでコーヒーを催促する。
我ながら図々しくなったものだ。
再び顔を上げ、リョウたんを見るとジェスチャーでサンドイッチとクッキーをアイコンタクトで催促していた。
しばらくするとアキラくんが、香ばしいコーヒーを運んできてくれた。探偵よりコーヒーマスターのほうがしっくりくるように思える。
「リカコさんの時を繰り返しているって言うのは信じがたいが、確かにどんどん正の字は増えていくようだし。店の連中以外知らない情報やたら知っているし。信じたら?と過程したら辻褄がつく。もうそれを前提としないと調査がすすまないような気がして。とりあえず、少し信じようと思い始めたんだ」
「少しだけ?」
アキラくん、私と何十回もこんなやりとりを繰り返してやっと少しなのね。辛いわぁ。
私は内心がっかりする。これは先は長い。
本当に。
「私が本気になればその正の字を書き続けることを止めて、アキラくんの額に肉という文字を刻むことも可能よ」
「タイムーリープを信じます」
「よろしい」
多少強引に事実をねじ曲げた。
繰り返すようだが、もう何十回も説明しているのでこのくらいの強行策は許して欲しい。
「ところで、会議はどんな内容の話をしていたの?」
「それは、かくかくしかくで……」
リョウたんは最初から話してくれた。
「で、レイカちゃんを呼び出して。魔女を連れてきてもらおうって話になったんだ」
私はその話を関心しながら聞いていた。
すごい。やっぱり探偵さんに頼んでみてよかったと。
繰り返しのなかで探偵がいないので探偵のまねごとをしてみた。それはそれは、全然うまくいかなかった。しかし、うまくいかない時間の中で、引っ掛かりを覚えたのはレイカちゃんとの出会いだ。
最初の頃はもう覚えてないが、何か意図的に私に接触してきたような気がしてならなかった。
別に不自然なことは何もなかった。
ただ私が彼女のことを気に止めるまで、心を少し許すまで、ただただ何かを我慢強く待っていたような気がしたからだ。
そう思うのは最近だけれど、私の手助けをしたいと思ってくれているというのは確かだった。
繋がった気がした。
「じゃあ、レイカちゃんが呼び出した魔女のせいで私はこうなっていると?」
「たぶん」
アキラくんはそう言った。
「なんで、レイカちゃんは覚えているの?だってアキラくんもリョウたんも私もこと忘れているのに?」
「それは、たぶん自分でメモとか日記でも書いてるんじゃないか?それに俺たちと違って、彼女の近くには魔女はいるんだ。状況を把握して、理解するのに時間はかからない」
「はい、はい、先生。だったら俺たちもメモ残しておいたらいいんじゃないですか?」
リョウたんが勢いよく手を上げる。
「その意見を採用する。冷蔵庫の貼ってるメモに足しておくように」
「先生。私の大変な身の上をレタスとチーズのメモの横に貼られるのはなんだか嫌なんですが……」
冗談はさておき、私は本題にうつる。
「あのね、せっかく皆さん頑張ってくれているところ悪いと思いますが。依頼内容を変えたいと思っているの。私のこと助けてくれなくても大丈夫ですから」
二人は驚いたように私を見る。
「十三夜月の探偵さんに依頼をお願いしたい。依頼内容はレイカちゃんから日記を取り上げ燃やして欲しい」
静かに私はそう告げた。