不思議な女
木曜日の朝。
喫茶十三夜月はリョウたんとミーちゃんににすべて任されていた。
「うん、引き受けたとはいえ。俺とミーちゃんでは、うん、無理だな。開店したところだが、閉店にするか。それがいいな」
青空の下リョウたんは背伸びをして、店の看板を下げよう本気で考えていた。
そこへ一人の女性がやって来た。髪は薄い淡い亜麻色で、美人ではないが優しそうな雰囲気の女性だった。もし、代行従業員でなかったら声を掛けたいくらいだ。優しそうなので俺の失恋話も聞いてきれそうだなと見ていると、彼女はリョウたんの前で止まる。
「あの?閉店してしまうんですか?」
リョウたんは閉店の看板を後ろに隠す。
「まさか!どうぞ、どうぞ。女性お客様は大歓迎です」
「有難う」
女はにっこりと微笑んだ。
「え~と、どこでも好きな席に。え~と、メニューは……」
あたふたとリョウたんはメニュー表を探す。
「ああ、そうか。今日、アキラくんは調べものでしたね。じゃあ、冷蔵庫に入ってるカレーのストックを温めてもらおうかな。ご飯は炊飯器に昨日炊いてくれたはずだから。コーヒーは、迷惑でなけれな私が入れますので」
まるでこの店のことをすべて知り尽くしたような常連だった。
「あの?アキラの知り合いですか?」
「ええ、あなたのことも聞いてるわよ。リョウたんくん」
そう言って女性は静かに笑う。
「私、リカコよ」
「じゃあ、俺のことはリョウたんで」
「じゃあ、私のことはリカちゃんって呼んでね」
不思議と懐かしい感じがした。
「へぇ、魔女探しに行ったんだ。オカルトチックね」
「リカコさんはそういうの信じませんか?」
本日はリカコさんが貸切るということで、閉店となった。二人は店内でカレーを食べていた。
「信じるわよ。私も不思議な体験をしたことがあるの。困ったことに、いまだに現在進行形なんだけれどね」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。だからアキラくん助けて欲してくて、試行錯誤してるのよ」
リカちゃんはそう言いながら、ペロッとカレーを平らげてしまう。
「ねぇ、リョウたん。アキラくんの腕ってやっぱり気になる?」
「えっ、ああ。はい?????」
質問の糸がわからなかった。
って、あれ???俺、アキラの腕の話したっけ?アキラが話したのか???
「実はね。あの腕の正の字を書いている犯人。私なの」
「えっ?」
リョウたんはリカコを見る。
「ええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
「えっ、あれリカちゃん?」
「そう」
「どうやって?つの?」
「そりゃあ、日曜日の最後の夜に」
「ええっ?どういうこと?」
「内緒」
リカコは微笑を浮かべた。
「まぁ、今日はこれで。アキラくんが積極的に行動してるのはよきかなよきかな。私も今週はもうダラダラすることにするわ。好きなもの食べて、ショッピングして映画を見に行くの。アキラくんには、また信じた頃に会いくるわねって伝えて。そのうちいつか、タイムリープも信じてくれるでしょう」
「えっ?」
「んっ?独り言。それよりカレーお代わりしましょう。冷蔵庫の奥にゼリーも仕込んでたわね。私のおごりよ。リョウたんも食べましょう。はい、あとこれ」
「これ?」
白い包み紙を開けると、金平糖、クッキー、チョコがたくさん出てきた。
「これは?」
俺は首を傾げた。
「差し入れ。甘いものが好きなんでしょう。前に私のポッケから落ちた金平糖を食べたのは、あなたね。言ってくれれば持ってくるのに。ね、ミーちゃん」
ギクッと物陰に静かにいたミーちゃんが完全に引っ込んでしまった。
それを彼女はいたずらっ子のように見ていた。