学校の七不思議
その日、俺はコーヒーを入れていた。
店じまいの時間で、店内には友人のリョウたんの姿だけである。
「ブレンドでいいか?」
「サンキュー」
へらくらとリョウたんは笑いながら言った。
「なぁ、そろそろ。その腕どうにかした方がいいんじゃないか?」
「ああ、これな。まぁ、そうなんだが。どうしようもなくてな。なんかどうでもよくなってきたよ」
石鹸やアルコールで綺麗に落としても、翌日には丁寧に書き直されていた。
「いやいや、どうでもよくないぞ。このままいくとそのうち全身を正の字で埋め尽くされて、化け物ものに喰われるぜ。まぁ、冗談はさておき。どうにかしようぜ」
「言うなよ」
それがお前のいたずらなら良かったのにな、溜息をつきながらコーヒーをリョウたんに出す。
「なぁ、ところで。ミーちゃんがさっきからポリポリ食ってるけど?」
「えっ?」
ふと顔を上げるとミーちゃんさんが器用に金平糖を美味しそうに食べていた。ポリポリと音が聞こえる。誰に貰ったのか?
「なぜ金平糖を?」
「ミーちゃんは、甘党だねぇ。ところで、学校の怪談ってるか?」
「なぜ学校怪談?」
アキラも椅子に腰かける。
「この前、依頼で小学校にお祓いにいったんだけどな。依頼とは別の話になるんだが、こんな話を聞いたんだ。噂話だよ。その学校には七不思議あって、七番目の不思議に魔女がいるんだ。魔女の願いを叶えると代わりに三つの願いごとが叶えてくれるらしぞ」
「だから?」
なんで魔女?だから何?
「いやもう、それ人の仕業ではない。霊でもないなら、いっそのこと魔女の仕業じゃないかと思ってな。これは、魔女の呪いだ」
「アメリカンジョークか?笑えないぞ」
「いや、マジだから」」
珍しく真面目なリョウたんだった。
「お前だって、この町の人間なら聞いたことがあるんじゃないのか?」
満月の魔女の話。
「それは、そりゃあ、あるけどさ……」
もう、魔女にもすがれってか?
「行ってこいよ、探偵さん」
「でもな……」
頼もしい友人がハリキリ始めた。
「明日の十三夜月は、俺とミーちゃんと乗り切ってみせぜ。なっ、ミーちゃん。アキラ、たまには探偵してこいよ。このままだとマジでコーヒーマスターになっちまうぜ」
いや、いつも探偵のつもりだったんだが?
しかし、このままでは本当にコーヒーマスターにジョブチェンジしてしまう。それはまずい。
そういう訳で、明日は一日探偵に戻ることとなったのだ。