レイカの場合
塾がお休みになった日があった。
お母さんに内緒で放課後は、学校の図書室に行った。家は窮屈だったから、時間を潰して帰りたかった。私は一人で薄暗い図書館で本を読みふけった。
どのくらい時間がたっただろうか。遠くで職員の人が、そろそろ閉めますよよ叫んでいた。占いや童話、花の図鑑を広げて読んでいた私は、慌てて本を閉じる。そのまま、急いで外に出た。焦って借りるは本はそのまま持ってきてしまった。
薄暗くなりかけた道を歩きながら、明日謝りにいかなければと小さく溜息を吐く。
自分の部屋に帰っきた私は、ランドセルをおろして本を机の上に置く。
「んっ?」
借りてきた本の後ろの方に薄い本が一冊挟まっていた。
「占いの本?かな?」
机に広げてみると、そこには好きな人に振り向いてもらう魔法。嫌いな人を不幸にする魔法。そんな見慣れない魔法という文字が書いてあった。魔法?占いとは違うのかな?どちらにせよ用意するものが難しすぎて無理だろう。
「トカゲの尻尾っていったいどうすれば?」
たくさんの魔法の中で、一つだけで出来そうな魔法があった。
「満月の魔女の魔法」
満月の魔女は願いごとを叶えてくれる。
三つの願いを叶えてくれる。
満月の魔女は甘いものが大好きなのだそうだ。儀式は、満月が池に綺麗に映ったその夜に、誰にも見られることもなく、ハチミツ、キャンディー、チョコレート、クッキー、イチゴジャムそれを池に投げ入れる。私は、その食いしん坊な魔女が可愛く思えた。クスリッと笑ってページをめくる。
「イチゴジャム?あったかな。ずいぶん欲張りな魔女ね」
そのあとは、投げ入れた波紋が止み、再び満月が現れたときこう唱えるらしい。
「三つの願いを叶えて下さい。代わりに満月の魔女の願いを一つ私が叶えましょう」
これなら出来そうだ。今度の満月の日にやってみよう。家の近くに池もあるって、戸棚には留守がちな両親が私のためにお菓子をいっぱいため込んでいた。
そして最後の一文にこう書いてあった。
魔女はとても気まぐれです。現れることもあれば現れないとこもあります。
あたなを幸せにすることも不幸にすることもあります。
お気をつけくさだい。
そこまで読んだ後、下の階から声が聞こえた。
「レイカちゃん、ごはんですよ。降りていらっしゃい」
「はい、お母さん。いま行きます」
私はその本を静かにそっと閉じた。