満月のこんぺいとう
水曜日の朝はドーナツにした。
昨日の帰りに商店街で買ったものだ。私はこのドーナツの穴の部分が好きだ。とってもほっこりするからだ。今度、生れ変わったらドーナツでもいいと思うくらいだ。
ウキウキとカフェオレを作りながら、昨日の出来事を振り返りながらドーナツを味わう。
結局、あのあとランチを食べて店長さんを待ったが帰って来なかった。
当麻くんという店員さんが気を使ってコーヒーのおかわりまで持ってきてくれた。とてもいい人だった。たぶん、あの喫茶店の店長さんがきっと探偵業に関係があるのだろう。
当麻くんはいい人だったが、あのカレー、あの味、あのコーヒーの酸味と苦みのハーモニー。あれは間違いなくベテランの店員。いや、コーヒーマスターは探偵ではないような気がする。だから、彼に私の悩みを話しても変人としか思わないだろう。探偵かもしれない?店長さんでもこんな話はまともに聞いてくれないかもしれない。仕方なく私は、名前と電話番号を紙に書いて渡して帰って来たのだ。
本音を言うと、行動しようと思えば出来たことだ。だが、私は何もしなかった。苦労が報われなかったときに、結果的に絶望して立ち直る自信がなかったからだ。何も報われずに傷ついても、誰も私に「頑張ったね」などと声を掛けてくれる人もいない。
その時、私は同じようにヘラヘラ笑いながらドーナツを食べている自信がなかったのだ。だから、この無職を満喫していたのだ。心の片隅では虚しいと知りながら、嘘を吐き続けて、動かなかった。
それを少しだけ、私を少しだけ動かしたのは、何の変化もない日常でレイカちゃんという友達ができたことが嬉しかったのだろう。
今日の夕方はレイカちゃんを待ってみよう。
何か話がしてみたい。おやつを今度は私が持っていこう。私は冷蔵庫の近くの棚を探しまくる。
「あった」
引き出しの中から出てきたのは、都心に遊びに行ったときにオシャレでカラフルなショップで見つけた。可愛らしい金平糖。
かれこれ、数百回くらい前の話だが、一度だけレイカちゃんの宝物を見せて貰ったことがある。その時にこんなことを言っていた。
「この小瓶は、私の宝物。だけど、お姉ちゃんが欲しいならあげてもいいからね」
空っぽの小瓶を見せて、寂しげに笑っていたのをぼんやり思い出した。あの空っぽの綺麗な小瓶に、金平糖を入れてあげたらレイカちゃんは喜ぶかもしれないな。
昨日の夜は満月だった。小瓶にいれた金平糖を満月にかざしたら、月の光でキラキラ光るかもしれない。
そしたらきっと、魔法の金平糖になって、私の呪いもとけるかな?




