喫茶十三夜月にてパート3
火曜日の昼、私は初めての道を歩く。
私の生活はいつものスーパー、いつものコンビニ、いつもの郵便局、そんないつもの中で過ごす。だから、今日はいつもと違って変な気分だ。この住所は近くはないが、そこまで遠すぎることもない。きっと今の生活から抜け出すヒントがあるはずだ。
喫茶十三夜。
その静かな商店街の奥にその喫茶店はあった。注意して探さなければ見落としてしまうだろう。そんなお店だ。チェーン店と違って、常連さん御用達な感じが正直入りにくい。
レトロ調の喫茶店。看板には本日のランチメニューが書いてあった。どうやら今日はカレーのようだ。私の大好物である。食後のコーヒーもついてくるらしい。
入りにくいなぁ。でも入るかぁ。
カランッと鈴の音が鳴る。
声も少し聞こえた。
何か話してるのかな?
なんかすごく入りにくいわ。やっぱ帰るべきか。私は半分だけ開けた扉を気づかれないように、そっとじしようと試みた。
「あっ」
どうしよう、奥の方にいたエプロンをした男の人と目が合ってしまった。黒髪のちょっと童顔ぽい、清潔感のあるような感じの店員さんだった。その一瞬で、店内を見渡すと誰もいない。あ、やっぱ帰りたい。
「す、すいません。間違えました」
いや、レイカちゃんの住所に間違いはない。間違いはないがないが、間違えました言ってしまった手前、帰らないといけない。ああああああああああ。
「あっ、あのランチですよね?やってますよ。他にお客さんいませんが、どうぞ」
その童顔の店員は私を引き止める。
「あっ、その……」
グーッ。
待ってくれ!!!!空気読んでくれ私のお腹!!!!!!!
「カレーライス大盛りでお願いします」
彼は小さくにこりと微笑んだ。
「注文承りました」
「いらっしゃいませ、喫茶十三夜月に」
ほどなくして私の目の前にとても美味しそうなカレーライスが運ばれてきた。ホカホカのライスによく煮込んだルーがかかってる。デミグラスが隠し味に入ってそうな匂い。食欲をそそる。
「お待たせしました」
「わぁっ!!!!」
思わず歓声がこぼれる。
そして、彼と目が合う。
「あ、あのなんで私のこと引き止めたんですか?」
「えっ、お客さんなので」
嘘くさかった。
お互い少しの沈黙のあと、彼はテーブルにあるメモを置いた。
「ほんとは店長へのメモなんだけど、さっきちょうど買い出しに行ったから、その、なんていうか、違ったらごめんなさい。あなたのことかな?と」
その白いメモにはこう書かれていた。
「火曜日に最初にやって来たお客さんを助けて欲しい」
紙にはそう書かれていた。