赤いランドセルの悪魔
白いボードにマーカーをキュッキュと走らせる音がする。
「おい」
「んっ」
静かな店内で俺はリョウたんに話掛けた。
「帰らなくてもいいのか?」
「十三夜月のモーニングメニューを考えているからな。まかせとけ」
「有難う。だが、頼んでないぞ」
アキラは真顔だ。
「おかまいなく。だが、俺は此処でモーニング食べたいんだ。ここでこうやって看板を作ってだな。外に出しておくとお客さんが来るだろ?そうすると。お前はモーニングを作らざるおえないからな、まかせとけって」
「いや、帰って下さい」
人の言うことも聞かずリョウたんは作業をしていた。
溜息がひとつこぼれる。
カランッ珍しい時間に喫茶「十三夜月」のドアの鈴がなる。
そこに立っているのは赤いランドセルの可愛らしい女の子だった。
珍しいお客様だ。
「いらしゃいませ」
この場合、お客になるのか?
なるのだろうな?
女の子はツカツカと店に入り。テーブルに座る。
とりあえず俺はトレーに水とお手拭きを乗せて運ぶ。
メニューをパラパラ見たあと、女の子が口を開いた。
「クリームソーダ。代金はそこのお馬鹿さんに」
「えっ?」
ふわふわの髪の女の子が微笑んだ。
店には俺とミーちゃんとリョウたんしかいない。
ミーちゃんであるはずもないし、リョウたんの知り合いか?
ふと、リョウたんの方をみると、見たこともないような青ざめた表情で固まっている。
「知り合いか?」
アキラは声を掛けるが、リョウたんは押し黙ってしまう。
しばらくして、こわばった声で尋ねる。
「なぜここに?」
「なぜここにいるかって?」
その容姿に似つかわしくない乾いた笑いが聞こえた。
「なぜ?調べればすぐにわかるわ。私から逃げられるとでも思っているの?ほんとにおバカさんだったのね」
「あ、アキラ、俺もう帰るわ。金置いておくから」
飲みかけのコーヒーカップの横にリョウたんは千円札置いて立ち上がろうとする。
「リョウタ、座りなさい」
「はい」
犬のようにリョウたんはすぐに座った。
そんなやりとりを傍観しつつ、俺はクリームソーダにバニラアイスを乗っけって完成させた。赤いさくらんぼもちょこんと乗っけた。溶けないうちにと、女の子のもとに運んだ。
「おまたせしました」
「わぁ、美味しそう。有難う、アキラさん」
「んっ?俺の名前」
「もちろん知ってます。当麻アキラさんですよね?」
「そ、そうですが。君は?」
「レイカです。三島レイカ、リョウタがいつもお世話になっております」
「レイカちゃんは、えっと?」
僅かに沈黙があった。
「私はリョウタの妹です。今後ともよろしくお願いいたします、アキラさん」
にっこりとレイカちゃんは微笑んだ。
「ねっ、お兄ちゃん」
わざとらしくいじわるそうに微笑んだ。
リョウたんの方はずっと青い表情をしていた。
レイカちゃんは、クリームソーダを食べた後リョウたんを連れて帰っていった。
「アキラさん、ミーちゃんまたね。バイバイ」
「うん、またねレイカちゃん」
謎多き女の子だったな。
何しに来たのだろう?
いや、客だったな。
そう思いながらアキラはテーブル拭いていた。
「んっ?」
テーブルの上には謎のメモが一枚残されていた。