赤いランドセルの少女
月曜日、チロルチョコ。
火曜日、ガム。
水曜日、チロルチョコ。
木曜日、ぽたぽた焼き。
金曜日、キャンディー。
土曜日、ポッキー。
日曜日、ウェハース。
そして今まさに、私の手の平に乗せられているのはチロルチョコ。
つまり今日は月曜日ということになる。
繰り返す日々を統計学的に計算していたら、おやつが貰えるという新発見をしてまったのだ。
まだ日の明るいの四時頃の小学校でだ。そこでたむろしていると貰えるのだ。学校の近くの通学路。少し行った先に今は使われていない小さな道があり、そこに階段がある。その階段に座っていると少女が私に声を掛けてくるのだ。
「ねぇ、お姉ちゃん。何してるの?」
「なにも」
あどけない笑顔で話かけてくる。
「お姉ちゃん、隣に座ってもいい?」
「いいよ。でもお姉ちゃん無職だからあまり近寄らない方がいいよ」
自分で言っていて物凄く悲しい。
「うん、わかった」
少女は間隔をあけ、スカートを綺麗に手でたたみ階段に座る。
「チョコあげる」
私はそれを手に乗せられる。
「ありがとう」
お礼を言って笑うと少女も静かに微笑む。
いつもの通りの日常だった。それから、いつもは少女はしばらく休憩した後に去っていく。
の、だが。
私はその時、何を思ったのだろう。規定外の行動に出た。
同じ場面を繰り返すばかりに飽きたのだろうか?
初めて声をかけてみた。
「な、名前はなんていうの?」
びっくりしたように彼女は私の顔を見ていた。
一呼吸置いて。
「私はレイカ。お姉ちゃんは?」
花が咲くような笑顔を浮かべた。
「私はリカコ。レイカちゃんはいつもここで何をしてるの?」
「うちの家、お母さんが厳しくてね。習い事が多いから疲れちゃって、ちょっと休憩」
まぁ、若いのに大変だこと。
「お姉ちゃんも、もしかして疲れたの?」
「うん、人生に疲れちゃってね」
おおおおおおおおおっ、と。未来ある小学生に私は何をしているのか。
「な、なんでもないわ!ほんと、ほんと、人生にも疲れてないし、探偵も探してないんだから!!!」
我ながらめちゃめちゃなフォローである。
「探偵さんを?」
「いやいや、なんでもないの」
「それならレイカが探してあげようか?」
いやいや、いくらなんでも小学生の世話になるわけにはいかない。
「でもレイカちゃん忙しいよね?習いごととか!!!」
「大丈夫だよ!レイカにまかせて!!!!!」
「いや、でも……」
押し強いな、最近の小学生は!!!!
くるりとレイカちゃんが立ち上がる。
「じゃあ、私がお姉ちゃんのお願い叶えてあげたら駅前のケーキ屋さんの特製シュークリームをご馳走してね。報酬はシュークリーム。この事件は、レイカにまかせておいて!!!!!」
私の前に両手を広げて、優しく微笑む。
愛らしい人形のような瞳、ふわふわの長い髪。
可愛いヒラヒラのワンピース。
赤いランドセル。
この子は天使かもしれないと私は思った。




