⑦
「ローが魂離れを起こしているだって?」
試験監督、カニーレ教官が驚きの声をあげる。男性教師と相談室に2人きり、ということもなくカニーレの隣にはルドヴィカの担任を勤めるヘンリエッタ女史が座っている。
「真実かどうかは分かりませんが、可能性は高いと思われます」
「でもルイズさんが魂離れを起こしているなんて…」
信じられないとヘンリエッタも口元を押さえている。
<本当です! 私ここにいますよー>
必死でアピールするが誰にも気付いてもらえない。
「ですが普通の魂離れとは様子が違うので、先生の見解をお聞きしたかったのです」
一般的に魂離れは魔法を知覚しだす幼児期に起こる。自分の中にある魔力を上手く扱うことができず魂を保護するために生命活動を一時的に低下させると言われているが詳しいことは分かっていない。ただこの場合は昏々と眠り続けることが一般的だ。時折目を覚まして食事をしたりすることもあるが、またすぐに眠ってしまう。
発症するかはその子次第だが、魔力が身体になじめば自然と目を覚ますことから危険視はされていない。
「そうならば眠り続けるはずよ。ルイズさんは欠席もしていないし、日常生活を変わらずに送っているわ」
「それに魂離れは幼児に起こる。ローは16歳だ」
教師陣はルドヴィカの主張に首をかしげている。
「以前に魂離れを起こしている子どもと接したことがあります。その時の状態によく似ていたのです」
ルドヴィカは以前に接した子どもの話を続ける。その子どもが起きたときにたまたま居合わせたのだが、問いかけには答えるが決まっていることしか答えない。感情や不確定なこと、知らないことは答えられない。その時も問い返すことはせずにただぼんやりと黙っているだけだった。
その状態が、今のルイズの状態とそっくりだというのだ。
試しに目の前でカードを取り替えてみてもそれが正しいと言われれば疑問も反論もなく素直に受け取った。魂離れを起こしている状態で魔法を使うと暴走するかもしれないのでその予防のためでもあったという。
<ホントだ! 似てるね。ルドヴィカ様色々考えてくれてたんだ。 …でも魂離れで意識が他の人に乗り移るとか聞いたこと無いけど…>
「確かに魂離れの症例とそっくりだが…これは…まさか…」
「ルイズさんは最近まで魔法に接したことがないわ。だから今起こったと考えてもおかしくは無い、のかしら…?」
カニーレは腕を組んで唸り、ヘンリエッタは口元に手を当てて下を向いて呟く。
<なるほど。普通は魔法に接し始めた幼児期に起こるけど、私は最近接したから身体が魔力になじもうとしてるってわけね!>
「そういえばルイズさんと仲の良いココさんから最近ルイズさんの様子がおかしいと相談を受けたわ。いつもぼんやりしていて問いかけに答えないこともあるって。 …4日前のことよ」
ふと思い出したようにヘンリエッタが顔を上げた。
<ココ! 心配してくれてるのね>
「魂離れなら目を覚ますまで1週間から長いと1ヶ月かかる子もいる。もう少し様子を見たほうがいいのかもしれない」
カニーレが真剣な目をヘンリエッタに向けた。その視線に意図を感じたヘンリエッタは小さく頷く。
「こちらでも気をつける。スフィーアも気をつけてあげてくれると嬉しい」
これで終わりだと立ち上がるカニーレをルドヴィカが引き止める。
「傀儡魔術なのではないですか?」