⑥
1週間たっても状況に変化は見られなかった。相変わらずルドヴィカと行動をともにし、ルドヴィカは仕事をいくつもこなしていく。
視界にまぎれる自分の姿は変わりなく元気に過ごしているようだ。
そして本日、魔法実技の試験の日だ。3クラス合同で訓練室に移動して試験順に呼ばれるのを待つ。試験前の緊張感が漂う中フラフラしている人影が1つ。
<私! じっとしてられないの!? >
一緒にいたクラスメートが先に名前を呼ばれて会場に向かってから落ち着きなく動き回っている。それを他の生徒が迷惑そうな顔で見ているが、注意する人間はいない。
部屋の中には平民出身魔法使いクリス君の姿もあったが、貴族達の中で声をあげることは彼にとっては難しいことのようで、先ほどからフラフラ歩き回るルイズの姿を目で追いかけて声をかけようとしてはかけられずに口を閉ざしてしまうことを繰り返している。
ルドヴィカの名前が呼ばれ立ち上がり試験会場入り口近くまで歩く。会場入り口は次の試験者だけが順番を待ち、そこだけ空白地帯になっている。
そこでルイズとぶつかった。どちらも軽いもので倒れることもなく「ごめんなさい」で終わるはずだった。
「?」
ルドヴィカが首をかしげてルイズを見た。この1週間視界の端にしか捕らえられなかった自分の姿をまじまじと見つめる。特に変わりなく生活しているようで、汚れていることもやせていることもなかった。ただその目には生気が無くどこを見ているか分からない。
「ルイズさん」
「はい」
ルドヴィカの呼びかけにルイズが答える。
「今日は天気がいいですね」
<なにゆえ天気の話!?>
「はい。そうですね」
ルドヴィカの問いかけに淡々と答えるルイズ。
ここ最近晴れの日が続いている。しばらく雨は降らなさそうだ。
「明日も晴れるといいですね」
「はい。そうですね」
「明日は雨ではないですか」
「………」
ぱちぱちと瞬きをするだけでルイズは答えない。その姿を見てルドヴィカはなにやら考え込んでいる。
「ルイズさん、カードを見せていただけますか?」
言われるままに試験で使うカードを差し出す。それを手に取り、別のカードを取り出しそちらをルイズに返す。
「これがルイズさんのカードです」
目の前で入れ替えが行われていたにもかかわらずルイズは素直に受け取る。そして抗議することもなくまたふらふらと歩き出していった。
難しい顔をしたままのルドヴィカは丁度入場を告げる試験監督に対して後で時間をもらえるようお願いしていた。