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 午後の授業中は橋の設計図と予算を見比べながら過ごし、放課後はまた小会議室に戻ってきた。

 今度は各部活の部長達がやってきて部費の相談を始めている。


<部費の配分は生徒会の仕事では?>


「ここは生徒会室ではありませんよ。生徒会長にお話してきてはいかがですか?」


「会長にお話しても一向に話が進みません。どの部活がどれだけの予算を必要とし、それに正当性があるかどうか判断できる材料を持ち合わせておらず、且つ持ち合わせようともしていないのですから」


 びしりと広げていた扇を閉じるのは演劇部部長。長い黒髪と切れ長の瞳が印象的な才人である。


「しかも部費として配分すべき予算を生徒会費だなんだと使っているような人間に何を訴えろって言うのかな?」


 こちらは魔術部部長。サイドテールのかわいらしい少女だ。


<どういうこと? アンリは生徒会は予算が潤沢にあるって言ってたのに…>


 まるっと1フロアある生徒会室に高級品がならんでいることを尋ねたときにそういっていた。備え付けられてる茶器や用意されている茶菓子も高級品だ。生徒会の特権だって言っていたのだが。どういうことなのだろう。


「予算は振り分けなければ成らないと何度説明しても理解できないバカなんだよ。あいつは。自分のところに来た金は、自分で使っていいものだって思い込んでるんだ。配分するイコール下賜だと思い込んだのは何でなんだろうな」


 アンリの従妹でもある写真部部長が身内の恥とばかりにため息をつく。


「『予算が欲しいなら私を楽しませろ』とかどこの暴君かと思ってしまったよ。王族が会長になる慣例ももはや撤廃すべきだとボクは思うね」


 探偵部部長が書類をぺらっと差し出した。会長のリコール請求の用紙をルドヴィカは手に取り、そして『未決済』の山に積み上げる。


「とにもかくにも、今年度の予算が下りないことには部活動が出来ません。今は前年度の繰越金と部員からの部費で賄ってはおりますけれど、長期休暇中の強化合宿費用などはそうは参りません」


 毎年恒例の演劇部の地獄合宿はどんな大根役者も一流の俳優と化すと評判である。権謀術数蔓延る貴族社会を生き残るために役に立つと演劇部に入る生徒も少なくない。


 演劇部部長は1ヵ月後に控えた合宿費用の予算内訳を示した紙を提示し、同時に学園所有の避暑地にある合宿予定地についての使用申請も差し出した。


 昨年と大きく異なることのない書類を見てルドヴィカは訂正を求める。


「本年度この場所は騎士部が使用します」


「え? 毎年我が演劇部が使用することが慣例となっておりますわよ?」


「ええそのとおりです。部の規模としても申請理由としてもそれが妥当でしょう。しかしながら今年度は年度通して騎士部が使用すると通達がありました。他の部の使用は認めないそうです」


「…っざけんなよ」


 令嬢らしからぬ発言が聞こえたが心得たように皆無視する。


「私としてもそのような独占はさせたくはないのですが、生徒会長が会長就任とともに自主的に行った数少ない仕事のうちの一つなので止めることができませんでした」


 謝罪の言葉とともにルドヴィカは頭を下げた。


「あー。あれでしょ。生徒会室に一般生徒立ち入り禁止にしたやつ」

「それまでは一般生徒も生徒会に意見陳述できたと記憶しているよ」


 魔術部、探偵部両部長が顔を見合わせ、写真部部長は顔を覆って頭を振っている。


「しかも騎士部っていかに見栄えよく剣が振れるかってやってるところでしょ? 技術的にも実力的にも剣術部に劣るよね」

「キミたち魔術部にも劣るとボクは推理するけどね」

「無駄な動きが多すぎますわ。演劇部の殺陣のほうがまだ動きが良いですもの」


 見ていて惚れ惚れするような騎士の剣技は各部長に一蹴される。「すごーい」「カッコイー」と褒めていたのに。本当に、カッコよさだけを追求したものらしい。


 結局部費の配分は決まらず、始終アンリたち生徒会役員への愚痴が飛び交っていた。




「遅くなってしまいましたね」


「本日も、でございますね」


 退室時刻となり各部長たちも帰っていった。ルドヴィカは図鑑かと問いたくなるほどの紙の束になっている書類をミーシェに持たせている。


「鞄を取ってくるわ。ミーシェは先に馬車まで戻っていて」


 私が、と言い募ろうとするが、腕の中の図鑑が重さを主張する。ミーシェはしぶしぶルドヴィカの指示に従う。





<怖っ…>


 誰もいない教室は薄暗く不気味な様相をしている。その中をルドヴィカは怯えることもなく自席に置かれたままの鞄を手に取り入り口に戻る。


<ルドヴィカ様はいつも堂々としてるなぁ>


「あら?」


 ルドヴィカはそんな言葉とともにすっと屈む。そんな所作すら綺麗だなぁと場違いに感じているとルドヴィカは何かを手にとって立ち上がった。


<よく見えるな。っていうかそれ私の羽ペン?>


 薄暗い中でルドヴィカが見つけたのは真っ白な羽ペン。クルクルとまわして掲げている。


「誰のかしら? この辺りの人かしらね…?」


 残念ながら自分の席とは遠く離れた場所に落ちている。風で飛ばされたか、鞄から落ちたか。


「置いておけば分かるでしょう」


 近くの机の上にぽんっと置くとそのまま教室から出て行った。


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