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後日談Ⅵ

「他に聞きたいことはあるかい?」


「そうですね。宝物庫の管理の徹底をしていただければ。あとは…、ルイズさんの魂が体に戻った理由は分かりましたか? あのとき特に生命の危機ではなかったはずなのですが。

 そしてもう一つ。ルイズさんの話によると魂離れを起こしている間ずっと私と一緒にいたと証言していました。何故なのか心当たりはございますか?」


「宝物庫の管理に関してはすまなかった。あれから陛下とも相談していわくつきのものは全て宝物庫内に別のエリアを設けてそちらに厳重に保管することにしたよ。普通の宝物と似たようなものもあるし間違えて母上が使用してしまっても問題だからね」


 アレクは軽く頭を下げた。今までそのような間違いはなかったことを喜ぶべきなのだろう。もしかしたら長い歴史の中では同じように使用されて闇に葬られた事件があったのかもしれない。

 アンリに宝物庫に入る許可は出ていなかったのだが、宝物庫にいた王妃ははおやに用事があると入ったと言うことも分かっている。今後、立ち入りの制限も含め管理体制の見直しも進めている。


「ルイズ嬢の魂が戻った理由ね。本人曰く、『とっても頭にきてふざけんなって思ったら戻ってた』そうだよ」


「それが理由ですか?」


  怪訝そうなルドヴィカに、アレクは苦笑いを浮かべるしかない。


「もともと傀儡魔術にしろ魂離れの症状にしろ詳しいことは分かっていない。生命の危機で魂が戻った事例があったからそう言われてきただけだよ。今回の件で『とっても頭にきた』ら魂が戻ると事例を増やしておかなければね」


 本気なのか冗談なのか。おそらく本気だろう。数年後には閲覧禁止魔術書の中に事例として掲載されることになる。

 ルドヴィカは少し思案するように目を伏せる。そして推測ですが、と前置きをした上で口を開く。


「生命の危機も激しい怒りも魂が揺さぶられる出来事です。もしかしたら強い思いが必要なのかもしれません」


「ルイズ嬢はそれまで戻りたいと強く思っていなかったと?」


「いいえ。そうではありません。普段私たちが思う程度のものでは足りないのです。思える程度よりも強く、たった一つ魂全てをかけて思うほどの何か、それ以外他に考える余地がないほどの思い、ということです」


 ふむ、とアレクは目を閉じてルドヴィカの言葉を反芻する。


「確かに生命の危機に陥れば『助かりたい』以外に思うことはないだろう。怒りで頭が真っ白になるとはよく聞く話ではあるな」


「あくまで推測です。こればっかりは試してみるわけにはいきませんからね」


 推測が間違っていて戻れなかったら大変なことになる。肉体と魂が離れることによる悪影響も否定できない。今後万が一何かあったら検証してみようということで意見が一致した。






「それからルイズ嬢の魂の器がルゥだったらしい件に関しては魔法省の責任者も首をかしげていたよ。彼女の証言に偽りがあるようには思えなかったけれど、通常肉体を離れた魂は器となるものがなければ霧散してしまう。ルゥの肉体が器の代わりになったとも考えられるけど、魂があるのにそこに新たな魂が入り込む隙はないはずだ、とね。よほどルゥの肉体の器が大きいのか、ルイズ嬢との魂の相性が良かったのか…」


「相性、ですか」


「ルイズ嬢ははっきりと君と一緒だったことを記憶していたわけだけど、君はなにか感じなかったのかい?」


「いいえ、全く」


 2人とも腕を組んで考え込む。今回の件に関して唯一解決されない謎。ルドヴィカをもってしても謎は深まるばかりだ。



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