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後日談Ⅳ

「それからリチャード・エミヤはトーサとの国境警備の一般兵役についている。訓練とはいえ実戦経験のある兵士には自分の剣が全く通用せずにしごかれていると報告書があがっていたな」


 すかさずセミョーンが書類をルドヴィカに渡す。政務に関することでは負けませんよと目を細めるセミョーンに、ならばと温くなりすぎたルドヴィカの紅茶を熱々に淹れなおすミーシェ。


 現場指揮官兼監視役からの報告書には使い物になら無すぎると記載されている。いかにかっこよく剣が振れても実際には全く役に立たずに泣きべそをかきながら逃げ出そうとすること37回。仮病で休もうとすること14回。打撲で歩けないというのにトイレにはしっかりと歩いて向かうので訓練に引っ張り出すこと8回。下級兵士の役目である掃除洗濯で出来たあかぎれが痛いと医官に訴えること108回。

 現場指揮官細かく数えすぎだろうという突っ込みは入れまい。


「本当は近衛騎士の一般兵役にする予定だったんだけど、父親であるレイナード・エミヤ騎士団長が納得しなくて」


「騎士団長様が? なぜですか?」


「不甲斐無さ過ぎて。根性を叩きなおすと剣を合わせたんだけど全く使い物にならない。妹であるメリッサ嬢にさえ負けてしまう始末だったらしい」


「メリッサさんは魔術のほうがお得意だったと記憶しておりますが…」


 騎士家であるエミヤ家は女性でも剣術を学ぶ。男性に比べれば力と持久力で劣る分速さと正確さを磨いたエミヤ家の女性騎士は王女や公女の護衛に引っ張りだこになっている。

 とはいえやはり個人には向き不向きがあるわけで。メリッサ・エミヤは剣術よりも魔術のほうが得意である。


「魔術で負けたことに不平を言ったら『仮に主君が魔法で危険にあったときはそれでも同じ言い訳をするのか!』と殴られ、魔術を使用禁止にした勝負でもさらに負けて『お前が剣を持つのは百年早い!!!』と殴り飛ばされてそのままトーサの国境まで走っていったらしいよ」


「え? 走っ? え?」


 耳を疑う言葉におののく。さらに驚きの言葉をアレクは続ける。


「そう。後ろから鞭を持ったレイナードに追い掛けられながら。警備地区にたどり着いたのが一昨日で、それからの泣き言回数がそれだよ」


 それ、とルドヴィカの手にある書類を指差す。


「騎士団長様は…」


「たまっていた休暇を消化するって長期休暇をとっている。今頃王都に戻ってる最中なんじゃないかな。 


 走って」


 思わず視線を逸らす。互いに目をそらしたまま紅茶で喉を潤す。こんなときは温いお茶が良かったとちらりとミーシェに視線をむけるとさっと目をそらされる。

 父親オニに追いかけられるのと現場でしごかれるのとどちらがましかといわれたらきっと後者だろう。それでもあの報告書を見ると…。



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