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後日談Ⅱ

 

「ねぇ、ルイズさん。考え直す気はないのかしら? 別にあなたが行かなくてもいいのよ」


「いいえ。私決めました。だって傍に居たいって思っちゃったんですもん」


「あんな言い方をされたのに? 見限ってもあなたを薄情だと思う人など居ないわ」


「正直私も見限っているからね。それが普通だよ」


 ルドヴィカとアレクは揃って考え直すように迫るがルイズの決意は変わらない。

 ルイズの足元には小さな鞄が一つ置かれていた。


「確かにひどいこといわれました。なんてことしてくれたんだーって思いましたよ。でも離れてるときに思ったんです。彼の隣には今誰が居るんだろうって。誰もいなくて1人で寂しい思いをしてるんじゃないかって。1人くらい傍にいたっていいじゃないですか」


 思い出して悲しげに話しながら、徐々に決意を新たにしたように顔を上げてまっすぐ前を見つめる。


「だから私は、アンリのところへ行きます!」


 宣言された言葉にルドヴィカとアレクは互いに呆れたような視線を交わす。決意は固いと実感しつつもそれでもと僅かな可能性に言葉をつなぐ。


「アンリはすでに王族ではないけれど、利用価値はあるからね。他者との接触を禁じた上で生涯幽閉されることが決まっている。その上血筋を残すことも許されていないから、子どもを持つことも無い。たった2人でこの先ずっと過ごしていくんだよ」


「アンリと2人っきりなんて望むところじゃないですか」


「彼の性格はあの時から少しも変わっていませんよ。またひどいことを言われたり八つ当たりをされることは分かりきっています。護衛と監視を兼ねた兵士にもすでに散々当り散らしていると報告が来ています」


「元気があっていいじゃないですか」


「君の頭の中でアンリがどう変換されているのか不思議だよ」


「失礼ですね。ただアンリが好きなだけです」


「身体に影響は無かったようですけど精神に問題が出たのかもしれません」


「ちょ! ルドヴィカ様までひどいです!」


 立ち上がって抗議をする。見下ろした先のルドヴィカの表情は柔らかい。視線だけでなだめられたルイズはすとんとまたソファに腰を下ろす。やけくそとばかりにテーブルの上のクッキーを掴んで口の中に放り込む。さくっと軽い歯ごたえと上品な甘さが口の中でハーモニーを奏でる。何枚でもいけそうだとさらに手をのばすと、アレクがクッキーの乗った皿をルイズの方へと寄せてくれた。ルドヴィカを見ても柔らかな微笑を浮かべているので全部食べていいのだと理解する。


「アンリの言動に耐え切れずに世話を申し付けたメードから異動願いというか退職も辞さない嘆願書が届いているからね。君が行って世話をしてくれるのならそれはそれで好都合なのだけれど。本当にいいのかい?」


「ふぁい!」


 クッキーを頬張りすぎてなんとも締まらない返事にアレクは苦笑している。

 懸命に咀嚼し口の中を空にして力いっぱい拳を握る。


「私はもともと平民でしたし子爵家に引き取られてからも料理や掃除もすることもあったから一通りの家事はできると思います。心配してくださるのはありがたいのですが、ダメだって言われてもこのままアンリのところへ行きますから」


 クッキーを食べきりもう用はないとばかりに足元に置かれた鞄を手に取り立ち上がる。


「アレク様、ルドヴィカ様、お世話になりました!!」


 勢い良く頭を下げ、同じくらいの勢いで戻ってきた顔は輝きに満ちている。ルイズはそのまま部屋を出て行った。ルイズの決意を聞き、最終確認のために呼び出していたのだが、その思いは変わらなかったようだ。真実を知って、すこしぐらい揺らぐかと思ったが、そのようなことなど瑣末なことだと笑っていた。

 門に馬車を用意してある。これから軟禁されるために意気揚々と向かうルイズの未来に幸あらんことをと小さく祈る。


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