後日談 Ⅰ
およそ1ヵ月後、ルドヴィカはアレクに呼び出され、王宮の王太子の執務室、ではなく魔法省長官の部屋に呼び出された。アレクは魔法省長官を兼務しており、ルドヴィカも籍を置いていることから、煩雑な手続きなく来ることができた。
「呼び出してすまなかったね。君自身で調べたこともあるだろうけど、色々答えあわせをしたいかと思ってね」
「アレク様のおよびとあらばこのルドヴィカ・スフィーア、どこへでも馳せ参じますわ」
優雅な礼とともに微笑む。アレクに促されソファにすわり用意された紅茶のカップを手に取る。アレクも向かいに座り、僅かに穏やかな時間を堪能する。
「まず始めに。ルイズ嬢の身体検査の結果は良好。長らく魂がなかった影響は見られなかった。魂がないことにより使用できなかった魔法も、きちんと使用できるようになっていたよ」
「まぁ。それは良かったです」
本心からの笑みにアレクもつられて笑顔になる。互いに紅茶を一口飲むと、カップをソーサーに戻した。
「さて。今回の件、ルゥの…ルドヴィカ・スフィーアの見立てを聞かせてくれないかい?」
試すように細められた緑の瞳には面白がっているのがすぐ分かる。それほどルドヴィカとアレクの付き合いは長い。そして深い。
「真相を教えていただけるのではないのですか?」
「答えあわせ、と言ったろう? まずは解答を聞かせてもらわないと」
いたずらを仕掛けた子どものように笑って片目を閉じてみせる。
こうなることは予想済みのルドヴィカも楽しそうに笑って解答を述べることにする。
「そうですね。ルイズさんに贈られたブレスレットは魂離れを起こす呪いがかけられたものではなく、実際には傀儡魔術をかける媒介であったと考えられます。装着したものの魂を強制的に引き剥がし肉体を自由に操るといったところでしょうか」
一旦言葉を区切るとアレクは視線だけで続きを促す。ルドヴィカもよどみなく言葉を紡ぐ。
「しかしながら呪いの行使者であるアンリ様… いえアンリは、それが傀儡魔術の媒体であることを知らず、また、傀儡魔術を正常に機能させるための魔力が圧倒的に足らなかった。そのため魂だけが強制的に引き剥がされただけの状態になってしまった、というのが今回の件の真実だと考えています」
事実、カニーレに渡した魔術師リストにアンリの名は記載されていない。仮にアンリが傀儡魔術と知って行使しようとしても結果は変わらなかっただろう。
どうでしょう? と小首をかしげるルドヴィカにアレクは拍手を送る。
「えっと… どういうことですか?」
成り行きを黙って聞いていたルイズが口を挟む。
「魂離れが起こっていたのではないのですか?」
パーティ会場でアレクが言っていたことは嘘だったということなのだろうか。貧相な脳みそではわからない。
「結果的には魂離れが起こっていたので嘘ではないよ。しかし行使されたのは傀儡魔術。使用が確認されれば死罪もありうる禁術だ。それを王族が使用したなどと知られるわけにはいかないからね」
紅茶を飲みながらアレクは補足する。それはルドヴィカの解答が正解であることを告げていた。同じくカップを手に取ったルドヴィカは意味ありげにアレクに視線を送り、
「相変わらず身内に甘いですわ」
ポツリと呟く。
「なんだかよく分からないですけどこれからのためにも私の身体に異常が無くてよかったです」
様々な検査をされてようやく魔法省から解放されたルイズは添えられたお菓子に手を伸ばす。
ルイズがいない間にロー子爵家にあったアンリからの貢ぎ物は全て回収されていた。売り払って換金していなかったこともあり、その作業はスムーズに終わったらしい。
当然の事だと納得している。
ルイズがそれらをねだったわけでもなく、アンリが一方的に贈っていたことからロー子爵家自体にお咎めがなかったことに、むしろ感謝しているくらいだ。




