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「戻ってるわルドヴィカ様!」


 たった今気がついたルイズはルドヴィカに駆け寄りその手を取って喜びをあらわにする。何のことかよく理解していない周囲を置き去りにしている。


「ありがとうございますルドヴィカ様! ルドヴィカ様のおかげで私は元に戻ることが出来ました! それに知らなかったことを色々知ることが出来たし、ルドヴィカ様のこともよく知ることが出来ました。やっぱり知ることって大切ですよね。あ、ココにもお礼を言わなきゃ。あとカニーレ先生とヘンリエッタ先生とセミョーンさんとミーシェさんと… 

 ねぇルドヴィカ様。私セミョーンさんとミーシェさんはいいカップルになると思うんですけどどうですかね? ルドヴィカ様はどう思います?」


 途中で脱線し、ルドヴィカさえも置き去りにする。


「ええと…? セミョーンさんに関してはよく分かりませんが、ミーシェにはスフィーア領に婚約している方がいるので難しいかと…」


「セミョーン? 彼は2人目の子がこの間生まれたばかりだよ?」


 置き去られたなりに律儀に答えるルドヴィカとアレクにルイズは両手を床について絶望のポーズを取る。

 そんなルイズの手をアレクが優しく取って立ち上がらせてくれる。王太子に手を取られて立ち上がる。なんてロマンチックなの! とルイズは感動する。

 立ち上がってからもその手を離すことの無いアレクに顔を赤らめるとアンリがずいっと間に割って入ってくる。


「兄上。ルイズは私の婚約者です」


 ぶーっと頬を膨らませて抗議の声をあげるアンリにお前いくつだよという突っ込みは入らない。

 ルイズに至っては、やめて私をとりあわないでと脳内妄想暴走中だ。


「ごめんごめん。そんなつもりは一切合財これっぽっちも万が一にも億が一にも世界が滅んでも絶対確実に無いから安心して」


 過剰に装飾された否定の言葉に傷つくルイズ。むしろ疑うアンリ。


「色々聞きたいことがあるんだけど。まずはルイズ・ロー子爵令嬢。そのブレスレットはどこで手に入れたんだい?」


 指摘されて自身の左腕を確認する。そこには濃い桃色の宝石の嵌った華奢なブレスレットがされている。


 はずなのだが。


「あれ…? あ、いえ。これはアンリ…様に頂きました。私の髪の色と同じだからって。だから桃色の宝石…だったんですが…」


 そこに嵌っていたのは白い傷がたくさん入って薄ーいピンク色に見える宝石だった。周りのデザインは同じ事から違うものをつけているということでもないようだ。


「私がルイズにプレゼントしたもので間違いありません。兄上」


 ルイズの言葉をアンリが肯定する。


「ではそのブレスレットを宝物庫から持ち出したのはアンリ、お前で間違いないのだな?」


「はい。そのとおりです」

「え? ええ!? 宝物庫って?? ええぇ? それってまさかまさか…?」


 綺麗に磨かれたそれは新品同様で、まさか宝物庫から持ち出されたものとは思いもよらないルイズは慌てふためく。


「それが国宝だと知っていて持ち出して、陛下の許可もなく子爵令嬢に譲り渡した、とそういうのだな?」


「やっぱり国宝!!!」


 気軽にプレゼントされたものが国宝で、さらに陛下もちぬしの許可が無かったなんて知らなかった。知らなかったから許して欲しい。でも桃色の宝石が白っぽくなってしまっている。この責任を取れとか言われたら一介の子爵家程度ではどうにもならない。


 お家没落

 一家離散

 強制労働

 最悪 …死刑?


 悪い考えがぐるぐる回って頭を抱えてしゃがみこむ。でもブレスレットこくほうが髪に絡まったりしたら大変だと左腕だけは伸ばしたままで変な体勢になる。触ることも出来なくて外すことが出来ない。

 そっと寄り添ってくれたのはアンリでもジェフでもリチャードでもデビットでもクリスでもなく優しい優しいルドヴィカだった。ドレスが床につくことを厭うことなく膝をつき、ルイズの背に手を添えてくれる。

 アンリ以外の男性陣は空気よりも存在感を薄くしていた。

 そして唯一無駄な存在感を誇示し続けているアンリは、


「そのブレスレットだって暗い宝物庫の中でほこりをかぶっているより、かわいいルイズの腕で輝いているほうがいいに決まっているではないですか」


 なんてことを真顔で仰られている。

 アレクは額に手を置いて深い深いため息をついた。


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