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ぱちぱちぱちぱち
ふいに拍手が鳴り響く。静まり返った中でよく響く音の出所に視線が集まる。
「兄上?」
呆然と呟くだけのアンリと違い、ルドヴィカの行動は早かった。
「アレク様。お出迎え出来ず申し訳ありません」
糸でもついているのかと思うほどスムーズな動きでアレクの前に移動し頭を下げる。
パーティ用の衣装ではなく飾りの少ない軍服じみた服を纏っているものの、アンリよりも濃い金髪と深い緑の瞳を持つこの国の王太子は華やかさを失っていない。逆にシンプルな衣装がカリスマというべきオーラを際立たせ、見ているものを圧倒している。
「パーティに欠席の返事をしたのに突然来たのは私のほうだ。すまないね」
鷹揚にルドヴィカの謝罪を受け入れ頭を上げるよう促す。
先ほど受付から聞いた突然の来訪者がこの国の王太子でありアンリの兄でもあるアレク・ナインであった。もしも出席予定だったのに欠席と間違っていたらと戦々恐々していた受付担当およびルドヴィカだが、アレク自身の口からそうではないことを知らされてほっとしている。
「いえ、アレク様に来ていただけるなど望外の喜び。どうかごゆるりとお楽しみください」
学園の創立記念パーティの主催は生徒会および生徒会長アンリのはずなのだが、ルドヴィカはまるで主催者のようにアレクに口上を述べる。
「兄上! 兄上もパーティに来たのですね! ルドヴィカの所為でこじんまりとしたものになってしまいましたが、楽しんでください! あ、料理ももうすぐ来ますよ。えーっと? 何が来るんだったかな…」
それに反発を覚えたらしいアンリが急いでアレクの前に走りより笑顔を向ける。パーティの準備をルドヴィカに丸投げしていることを自ら告白したり、開催の挨拶後に提供される立食形式の料理の内容を把握していないことに呆れられていることなど思いもよらない。
「いやそうもいかない。用が済めばすぐに帰るよ。本当ならゆっくりしてきたいところなんだけどね」
「用、ですか?」
「そんな! 兄上!! 私のパーティです。一緒においしいものでも食べましょうよ」
アレクはアンリに一瞥もくれることなくルイズに視線を向ける。そしてルドヴィカの正面に向き直る。
「例の件で気になることがあったから確認しに来ただけだよ。まぁ、おおよそ解決はしたみたいだね」
その言葉にルドヴィカははっとして振り返る。そして柔らかな笑みを浮かべる。
「戻ったのですね」
小さな呟きに瞬き一つ。ルイズは両手を前に出して確認する。
「あ! ホントだ!! 戻ってる! 戻ってるわルドヴィカ様!」




