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「ふ ざ け ん な !!!!!」


 怒声はアンリのすぐそばから上がった。頭を下げようとしていたルドヴィカが驚いた表情でこちら・・・を見ている。


「予算を気にするのは当然でしょ! お金は無限には無いんだから!」


 キッとすぐ傍にいたアンリをにらみつける。初めて見る表情に目を白黒させて気圧されている。


「ル、ルイズ? どうしたんだい?」


「どうもこうもありません! そもそも私はルドヴィカ様にいじめられてなんかいませんから!」


 ふーっとピンクの髪が浮き上がるくらい怒りを纏う。


「いじめられてるのか聞いたときには否定しなかったじゃないか」

「それに数々の証拠が…」

「はん! 証拠ですって?」


 ジェフの言葉を最後まで言わせることなくルイズは詰め寄り鼻で笑う。


「私の持ち物からルドヴィカ様の魔力の残滓があったからってどうして隠したことになるのよ! 他の人の魔力は出なかったのよね?」


「え? いえ…。 他の方は調べていないので」


「はぁ!? 他にも触った人がいるかもしれないのになんでルドヴィカ様の所為になるわけ? 信っじらんない!」


 ジェフは言葉に詰まって下を向いて視線をそらしてしまう。


「クリス君は試験のときにカードを取り替えてたのを見てたならなんでそのときに言ってくれないの!」


「き、貴族の皆さんがいらしたので…」


「それ理由になると思ってるの?」


 クリスは目に涙を浮かべてデビットの後ろに隠れてしまう。まぁまぁとなだめるように手のひらを向けてくるデビットを睨み付ける。


「ルドヴィカ様の机にルドヴィカ様の手蹟で描いてあるのは普通でしょ。というか女の子突き飛ばすとかサイッテー」


 デビットはそのままの姿勢で固まった。

 ぐりんと振り向き、だらだらと尋常じゃない量の汗を流している大柄なリチャードを下から覗き込む。


「リチャード。あの場に居たんだから私が突き落とされてないことぐらい分かるわよね?」


「俺が見たのはルイズが落ちてくるところだけだ」


 視線を合わせないように上に逸らしたリチャードの襟元を掴んでぐいっと引っ張り視線を合わせようとするが、視点が定まらない。


「じゃあ突き落とされたかどうかわかんないじゃん。それに女の子一人抱きとめられないとか軽い捻挫で転がりまわるとか普段どんな鍛え方してるんですかー? キシサマー」


 だらだら落ちてくる汗が鬱陶しいので押し返すように手を離すとそのまま2歩下がって尻餅をついてしまった。


 両手を払うように打ち鳴らしついでに鼻も鳴らして残るアンリに対峙する。そのアンリもいつもと様子の違うルイズにおろおろしている。


「ルイズ…どう……… !! そうか! ルドヴィカ! 貴様の仕業だな!」

「何でもかんでもルドヴィカ様の所為にしない!」


 間髪入れずに切り返すルイズ。アンリに人差し指をびしっと向けられていたルドヴィカも言葉を挟む余裕が無い。


「アンリは普段ルドヴィカ様がどれほど私たちのために努力しているか知らないの!? 勉強も魔法も教えて欲しいって言ったら自分の時間を削っても教えてくれる。困ったことがあったら相談に乗ってくれる。助けて欲しいって言ったら助けてくれる。アンリだって助けてもらってるでしょ。このパーティだってそうよ。本当は生徒会の仕事でルドヴィカ様は関係ないのよ。なんで準備をルドヴィカ様がしなくちゃいけないのよ! 不備があるからって、ないけど、それでルドヴィカ様を責めるのは間違ってるわ」


「もちろん生徒会の仕事だ。生徒会としてルドヴィカに依頼したのだから、生徒会の言うとおりに動かないルドヴィカが悪いに決まってるじゃないか。本当にどうしたんだ? ルイズ」


 なぜルイズが声を荒げているのか心底理解できていないアンリは困惑を隠せない。いつもニコニコ笑顔のルイズがこんな表情を見せるなんて。


「生徒会の言うとおりに?? じゃあその生徒会は何を言ったのよ! 何もかもルドヴィカ様に丸投げじゃない! 本来なら最低でも3ヶ月は準備に時間をかけるのに1週間でここまで仕上げたルドヴィカ様を賞賛すべきだわ。それに昨日の最終チェックに「良し」って言ったのはアンリでしょ? それを今更やっぱり良くないとか昨日の自分のセリフを棚に上げてふざけるにもほどがあるわ!」


 ルイズは一気に喋ったことで息が切れ、怒りと相まって肩を上下させて息をしている。その勢いに飲まれて誰もが言葉を失っている。


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