⑳
創立記念パーティ開会の挨拶後すぐに行われた宣言に、周囲の人間も驚きを隠せない。ざわざわとどよめきが広がっていく。
<何言ってるの?>
「私がルイズさんに嫌がらせを?」
呆れた表情でため息混じりに答えると、アンリはより一層大きな声をあげる。
「貴様がルイズの持ち物を隠したり試験を妨害したり怪我をさせようとしたりしたことを私が知らないとでも思ったか!?」
<違うから! ルドヴィカ様は何も悪くないから!!>
「あなたがルイズの羽ペンに触れたことは魔力の残滓を解析したことにより証明されています」
<いや拾っただけだし。え。拾っただけで隠したことになるの?>
「試験のときにカードを取り替えていたところを僕は見ていたよ」
<私の身を案じてくれたんだよ。というか見てたんならその時に言ってよ>
「机に炎の魔法陣を描いてルイズのかわいい顔に火傷をさせるつもりだったのかな。手蹟を隠そうともしていない。ひどい義姉をもったものだよ」
<驚かせたかっただけだし。むしろ驚いたのデビットのほうだし>
「階段から突き落とすなんて悪意しか感じられない。その場に俺がいても貴女はためらわなかった」
<そもそも突き落とされてないよ。自分で飛んじゃったんだよ>
アンリに続き、友人兼側近兼取り巻きである宰相の孫・ジェフ、強大な魔力を持つ平民・クリス、ルドヴィカの義弟・デビッド、騎士団長の息子・リチャード、それぞれ立場ある人物が揃ってルドヴィカを糾弾する。
「ルイズが魔法を使えなくなったのもどうせお前の所為なのだろう!」
<え? そうなの? 初耳なんですけど>
「皆様が何を仰られているのかよく分からないのですが…。それより少し席を離れますことをお許し願います」
困惑を浮かべるルドヴィカ。巻き込まれるような形になってしまった受付担当の男性もおろおろしてその場を離れるタイミングを見失っていた。
「逃げる気か!」
「このような暴挙を見逃すわけにはいきません」
「権力を笠に着てやりたい放題やってくれたな」
「地位や身分なんて美しい心の前では何もならないのにね」
「僕は貴女のような人は嫌いです」
口々にルドヴィカを罵っていくが、心当たりのないルドヴィカは首をかしげるばかりである。
周囲の生徒たちも、普段の生徒会の様子を知っているので「お前らが言うことか」としらけた雰囲気が満ちている。
「ルイズも何か言うことは無いか?」
アンリに促されたルイズはきょとっと目を丸めているだけだ。
「ルイズは優しいな。いじめてきた相手にも心配りができるなんて」
「爪の垢を煎じて飲ませたいですね」
「淑女の鑑だな」
「ルイズの清らかさの前では神さえも霞んでしまうよ」
「僕はルイズが大好きです」
<何もせずに笑ってるだけじゃない。それが良いっていうの?>
自分を褒められているはずなのに全く嬉しくない。それよりも怒りがふつふつと沸きあがってくる。久しく感じていなかった心の動きに少し戸惑う。
「それに比べてルドヴィカ。貴様はどうだ。ルイズに対して嫌がらせを行うなど公爵令嬢の風上にも置けんな。それにこのパーティ会場はなんだ? この私が主催するパーティがなぜこんなに貧相なのだ? もっと華やかにしろと言ったはずだぞ」
「それはお話ししましたとおり、予算の都合がありましたので」
「言い訳は聞きたくない。私がやれというのだ。すべてを差し出すのが貴様らの役目だろう」
<はぁ!?>
「どうしてこの国の王子である私が予算など気にしなければならないんだ」
ふんぞり返ってルドヴィカを見下している。そのバカにしくさった視線はルドヴィカと視界を共有する自分も降り注がれる。
ぎりっと奥歯をかみ締める音が脳内に響く。震える拳を押さえつけるようにぎゅっと握りこむ。
<ふ、ふ…>
「申し訳…」
「ふ ざ け ん な !!!!!」




