②
「おはようございます」
知らない人の声がして、意識が浮上する。ぼんやりと目を開けると見覚えのない天井が見えた。よく見ると天蓋だ。家のベッドよりも大きくてふかふかのベッドに横になっているらしい。
<!?>
どういうことか、何があったのか起き上がろうとしたが身体が動かない。
<え? なんで? 身体が動かない! どういうこと!?>
パニックになったのは短い間だけ。すぐに身体が動いてベッドから起き上がることが出来た。
声をかけてきた人物がカーテンを開けると朝のまぶしい光が目に痛い。
「よくお休みになられましたか?」
そう聞かれ、いったいここはどこなのか尋ねようとしたが、つむがれたのは別の言葉だった。
「おはよう、ミーシェ。よく眠れたわ」
<!!??>
自分の意思とは関係なく口が動き、自分の意思とは関係なく身体が動く。質のよい薄いネグリジェを纏った身体は細く長く美しい足をふかふかのスリッパに入れて歩き出す。
「そう仰られましても、昨夜も遅くまでお仕事をされていたのではないのですか?」
ミーシェ、と呼ばれた人物は苦笑しながらこちらへ向かってくる。
「昨日は仕事は早く終わったもの」
ふふっと笑って鏡の前の椅子に座る。
<ル、ルドヴィカ様?>
鏡に映るのはスフィーア公爵家令嬢、ルドヴィカ・スフィーア。その人の顔。そして自分にとっては憧れの人物であり恋敵であるはずの人。
ミーシェは櫛を持ってその髪を丁寧に梳き始める。
<綺麗な髪…>
鏡の中のルドヴィカはミーシェに髪を梳いてもらいながら鏡台の横に書類を手に取り眺める。
<いや違う! ルドヴィカ様! ルイズです! あたしなんでここにいるんですか!?>
「先日までの長雨の影響でどこも食料の値が上がっています。支援の要請が各地から嘆願書として上がってきています」
<ミーシェ? さん? あたしのこと分かります?>
「そうね。北部は蓄えも少ないですもの。早急に支援をいたしましょう。南部はまだ備蓄があるはずです。もう少し様子を見ましょう」
<ルドヴィカ様! お願いです! 気に食わないことがあるなら謝りますから! いや気に食わない事だらけだと思いますけど! そこは話し合いましょう!>
さらさらと書き付けて反対側の机に置いていく。ルドヴィカは朝の支度をしながら書類を読みその場で署名をし次の書類に目を通していった。