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 人のいない旧校舎。その東側の階段を上る人影が一つ。

 いつものようにニコニコと笑顔を浮かべているルイズ・ロー。

 2階から3階へ続く階段に足をかけたところで一瞬動きが止まる。目の前の段を確認し、そして何事もなかったかのように再び足を動かし上っていく。

 踊り場まで残り5段というところでルイズはくるりと振り返り、


 そしてためらい無く飛んだ。


「ルイズ!!」


 慌てて叫んで飛び出してきたのはリチャード。落ちるルイズを受け止め、受け止めきれずに倒れこみ、なお勢いは止まらずごろごろ転がり壁に激突して止まった。


「怪我はないか?」


 荒い息をしながら腕の中のルイズを確認する。見たところ出血はしていないようだが…。抱きしめていたルイズを向かいに座りなおさせる。

 ぱちぱちと瞬きをしながら見上げてくるルイズに再び尋ねる。


「痛いところは無いか?」


「ないです」


 ようやく返ってきた返事にリチャードはほうっと安心し笑みを浮かべる。

 その瞬間。


「痛っ」


 痛みの言葉を吐いたのはリチャード本人。気が緩んで痛みが襲ってきたらしい。


「痛い痛いいたいイタイイタイいタタタタタタタタタタタタ」


 足首を押さえてのた打ち回る。驚いたルイズが声をかけるも聞こえていないようにごろごろと転がり続けている。どうしていいか分からずにおろおろしているルイズ。







「どうかなさいましたか? リチャード様」


 ルドヴィカは見るに見かねて3階から降りていった。

 なおも転がり続けるリチャードを手早く静止させ痛みの原因らしき足首に手を当て、痛み止めの簡易魔法を使用し落ち着かせる。


「捻挫ですね」

「捻挫?」


 リチャードは目に涙を浮かべている。


「ええ。骨に異常はないようです。腱も正常。軽く捻っただけのようです。しばらくすれば治るでしょう」


 ルドヴィカの診断結果にぽかんと口を開けた間抜け顔をさらしていたリチャードの顔はすぐに真っ赤に染まる。


「そんないい加減なことを言うな! 医者でもない貴女に何が分かるというのだ!」


「それでは医務室に参りましょう。痛み止めの魔法をかけていますが、簡易のものなので急ぎましょう。無理をしてはいけませんよ」


 理不尽な怒りに怒り返すことも無くルドヴィカは冷静に提案する。それがリチャードの自尊心を傷つける。


「貴女に言われる筋合いは無い! というかなぜ貴女がここにいるんだ! 旧校舎になど何の用があるんだ! どうせよこしまなことを企んでいたんだろう!!!」


 実に理不尽。ならばリチャード自身はなぜここに? とルドヴィカは問わない。


「ルイズさん、リチャード様を医務室へ連れて行ってください」


「はい。分かりました」


 代わりにルイズに問いかける。素直なルイズはニコニコ笑ってルドヴィカのお願いを聞いてくれた。ルイズに言われてはリチャードも強く出ることが出来ず、そのまま2人で医務室へ向かっていった。




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