⑮
魔法陣作戦が失敗してから1週間が過ぎた。状況は何も変わることなく時間だけが過ぎていく。ルイズ(肉体)は日々ニコニコと笑いながらフラフラし、ルドヴィカは書類と格闘しながら生徒と交流し、アンリたちはルイズ(肉体)を囲みながら傲慢に過ごしている。
今日の放課後は珍しくクラスで過ごすルドヴィカ。クラスメートの幾人かが授業で分からなかったところを教えて欲しいと希い、快く引き受けたルドヴィカによる勉強会が開催されていた。それを目撃した他クラスの生徒が我も我もと参加を始め、20名ほどの大所帯が完成している。
<ほうほうなるほどそういうことかぁ>
授業自体はルドヴィカとともに受けているもののちんぷんかんぷんな部分は多々ある。それを他の生徒が聞くのにまぎれてちゃっかり参加をしている。
何と言ってもルドヴィカの解説は分かりやすい。なんなら教師よりも上手いといえる。同じ事を思った生徒の1人がルドヴィカを同じように褒め称える。
「大勢に対して初めてのことを教える苦労に比べたら一人に対して聞いたことのあることを伝えるのは難しいことではありません」
控えめな笑顔を見せるルドヴィカに顔を赤くしている生徒(男)。
「いやでもこの間ジェフさんに教えていただいたんですけどそれよりもずっとずっとずーっとルドヴィカ様の教え方のほうが分かりやすいです!」
<あぁ、それは…そうかもしれない>
ルドヴィカと学年主席を争うジェフ・ホーランド。
と、ジェフ本人は言い続けているがぶっちゃけ、万年2位。
勝手にルドヴィカをライバル視しているがルドヴィカは歯牙にもかけていない。
成績優秀なジェフだが、他人の「分からない」ということが分からない性質のようで、何度か勉強を教えてもらったことがあるのだが、「この問題はこれをこうする」と延々繰り返してくれる。なぜそうなるのか、なぜそれを用いるのか、どのようなときにそうなるのかの説明は一切無い。尋ねても「こうだから」としか説明してくれないため、宿題などは解けるのだが理解力というものに関してはほとんど向上しなかった。
それがルドヴィカの説明を聞いていたら「なるほど」と理解できることがたくさんあった。ルドヴィカは分からない生徒の解き方などを見て、どこでつまずいているのか、思い違いをしているのか、どこを見ればいいのか的確に指導してくれる。だからその後も自力で解答にたどり着けるようになる。
「出来ずにいると「教えてやってるのに何で出来ないんだ」って怒り出してどっかいっちゃいましたし…」
別の男子生徒が苦笑いを浮かべている。その時の光景を思い出しているのだろう。
「私は前にクリス君に魔法を教えてもらったんだけど、出来なかったときは「?」って顔されて終わったわ」
女子生徒が話に加わる。
「魔力が無尽蔵にあるクリス君の使い方は魔力の少ない私には出来ないんだってことがわかんないみたいだったわ。失敗することが分かってるのに同じ事を繰り返すだけでいつもは天使みたいにかわいいのに、悪魔みたいに見えたわよ」
「違うわよ。あれは分かっててやってるのよ。いつもびくびくおどおどしてるのを晴らすように自分が優位に立つとバカにしたように笑うんだから」
こちらもそのときのことを思い出しているのか顔を覆って深いため息をついたり憤ったりしている。平民出身クリス・メイディーは高い魔力と愛らしい容姿で一部の女子生徒に人気があったのだが、最近ではそうでもないらしい。勉強の手を止めた他の女子生徒も「クリス君あるある話」から「生徒会のメンバーあるある話」などに花を咲かせる。
そうなればもはや勉強会という名のおしゃべり会に早変わり。様々な愚痴や噂が縦横無尽に飛び交い花を咲かせて散らせていく。
そんな話に積極的に加わるわけでも止めるわけでもなく穏やかな微笑を浮かべたままのルドヴィカに女子生徒が話しかける。
「そういえばルドヴィカ様。こんな噂をご存知ですか?」