⑫
「昨日ルイズさんを呼び出して懇々と説教したり魔法をちらつかせたりしてみたのですが全く気に止めた様子もありませんでした」
ルドヴィカは早速行動に移し、ルイズ(肉体)を呼び出した。アンリに対する接し方がよくないとか義弟との関係を根掘り葉掘り聞きだすなど精神的な揺さぶりをかけたのだが魂の無いルイズ(肉体)には全く効かなかった。
<うん。私がやられたよ>
ずーんと暗い気持ちになる。
王族であるアンリに対する態度がいかに周囲に誤解を招き、そして自分自身を危険にさらしているかがよく分かった。今まではアンリがそれを寂しく思っているからと見て見ぬふりをしていたが、それではダメなのだ。
アンリのそばにいるためにはまず肉体的にも精神的にもそして社会的にも自分で自分を守ることができなければならないのだ。王族たるアンリにとってただ守られるだけの存在が傍にいることは害にしかならない。それでもアンリに絶対的な能力があればいいのだろうが、自分の目から見てもアンリは不安定だ。だからこそ傍にいてあげたいと思っていたのだが。
<私頑張るよ。でもそのためには身体に戻らなきゃいけないのよね…>
氷の刃を作って刃先を向けてもルイズ(肉体)は怯まなかった。不思議そうな顔でキラキラ輝く刃先を見つめるだけだった。
<氷のナイフなんて初めて見た。綺麗だったなぁ。でもたぶん見たことないから何か分からなかったんだろうな>
「簡単に戻るなら苦労はしないわ。ルドヴィカさんもあまり無理をしてはだめよ」
今日の報告相手はヘンリエッタだ。カニーレは仮眠を取っているらしい。疲れた表情だが生徒であるルドヴィカへの気遣いを忘れない。
「ルドヴィカさんがそれをする必要なんてないもの。やるなら私たちか保衛部がやるわ」
「私も出来ることはやっておきたいので」
柔らかな微笑を絶やさぬルドヴィカにヘンリエッタも微笑を返す。
「魂の無い肉体というのは恐怖を感じないようでした。ですから今度は驚愕とともに危機を感じてもらおうと思うのです」
「驚愕?」
<驚愕?>
ヘンリエッタとシンクロする。ルドヴィカは一つ頷くとヘンリエッタにとある魔法陣の使用を提案していた。