①
「ルドヴィカ・スフィーア」
名前を呼ばれたので振り向くと、そこにはルドヴィカの通う学園の生徒会長であり、この国の第2王子であり、そしてルドヴィカの婚約者たるアンリ・ナインが立っていた。
彼に寄り添うように立っているのはピンクの髪を揺らす子爵令嬢ルイズ・ロー。その周りを固めるようにアンリの友人兼側近である面々が立っている。
「アンリ様。どうかなさいましたか?」
玲瓏たる美声を響かせルドヴィカが問う。アンリは憎らしげにルドヴィカを睨み付けるとその口を開いた。
「ルドヴィカ・スフィーア。ルイズ・ローに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを王族に迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにナナイ王国第2王子アンリ・ナインとスフィーア公爵家長子ルドヴィカ・スフィーアの婚約を破棄する。そして、ロー子爵家令嬢ルイズ・ローとの婚約を宣言する!」
創立記念パーティ開会の挨拶後すぐに行われた宣言に、周囲の人間も驚きを隠せない。ざわざわとどよめきが広がっていく。
「私がルイズさんに嫌がらせを?」
呆れた表情でため息混じりに答えると、アンリはより一層大きな声をあげる。
「貴様がルイズの持ち物を隠したり試験を妨害したり怪我をさせようとしたりしたことを私が知らないとでも思ったか!?」
「あなたがルイズの羽ペンに触れたことは魔力の残滓を解析したことにより証明されています」
「試験のときにカードを取り替えていたところを僕は見ていたよ」
「机に炎の魔法陣を描いてルイズのかわいい顔に火傷をさせるつもりだったのかな。手蹟を隠そうともしていない。ひどい義姉をもったものだよ」
「階段から突き落とすなんて悪意しか感じられない。その場に俺がいても貴女はためらわなかった」
アンリに続き、友人兼側近兼取り巻きである宰相の孫・ジェフ、強大な魔力を持つ平民・クリス、ルドヴィカの義弟・デビッド、騎士団長の息子・リチャード、それぞれ立場ある人物が揃ってルドヴィカを糾弾する。
そんな中。
<違うから! ルドヴィカ様は何も悪くないから!!>
ルイズは訴えることの出来ない空虚な身をただひたすら嘆いていた。