④
とりあえず、当面はここにいることになった。
もう家はないし、行く当てもない。
私には生きる術がない。
という現実が見えていなかった。
とにかく早く自立できる術を身に着けて早く出て行こう。
そう決心した。今は。
ジャックが先にシャワーを浴びに部屋を出て行ったので、ほっとして
ソファにゴロンと寝転がった。
このソファ見てくれは少々汚れているが
スプリング加減が絶妙で、しかも革張りなので滑らかで感触がすこぶる良い。
ゴロゴロしながら寝心地を確かめる。体を伸ばしても十分な大きさがあり
私には出来すぎのゴージャスベッドを手に入れた。
「ボーズ、シャワー空いたぞ。行ってこい」
ジャックがソファの後ろから声を掛ける。せっかく人が気持ち良くソファを
堪能しているのに、うるさいなーと何気なく振り返る。
視界に入る範疇に体を覆っているものは見えない。首にタオルをかけたまま
濡れた髪からは、ポタポタと滴が垂れている。
「きゃあああああああああ」と言う言葉を必死に飲み込む。
私は挙動不審を悟られない様にそっぽを向いたまま努めて冷静に答える。
「イイ」
すると、がしっと頭を掴まれてジャックの顔が突然アップになった。
驚いて心臓が口から出そうになる。全機能停止状態で固まっていると
私の状態などお構いなしのジャックが
「そのイイってのは入っても良いのイイだよなぁ。
まさか入らないのイイではないだろうなぁ。
おいボーズ。ん?どーなんだ?」
モスグリーンの瞳がギラギラと近付いてくる。
私はお気に入りのソファの上でジリジリと後ずさりしながら目を逸らす。
「早く行け!さもないと服のまま水浴びすることになるぞ」
自分の掛けていたタオルを私の頭にパサリとかけた。
OH MY GOD!! 一瞬で思考が停止した。
ジャックのタオル!!
ここにジャックのタオル!!
ジャックは・・・
うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・
脳内でパニくっているなんて、思いもしないジャックは
私がシャワーを嫌がって、抵抗しているものと思い
「ほう。そんなに服のままぶち込まれたいのか。ボーズ」
脅しをかけてくる。ジャックの馬鹿野郎。お前のせいだーと心の中で
叫びながら、私は脱兎のごとくシャワー室へ駆け込んだ。