②
食事をしてから教会に行った。
母個人の墓石はない。
教会の隅に共同墓地の大きな石碑があってそこに名前が刻まれているだけだ。
埋葬は何処にされたかわからない。教会が都合のいいところに埋葬してくれる。
仕方がないのだ。これが貧困層の現実だ。でも悲しくはない。
ちゃんと埋葬してくれたしお祈りもしてくれた。タダで。
みんなで石碑の前に並び、花を手向け黙祷する。
ダンはすすり泣いていた。マーロンも目を赤くしながらダンの背中をさすっている。
トニーも静かに目を瞑っている。ジャックはマリーと書かれたところをじっと
見つめていた。私は・・・。
他人が母の名前を呼んで憐憫にひたっているのに、自分は涙すら浮かばない。
今を生きていくのが精一杯で感情が死んでしまったのかもしれない。
今日から何処で寝ようか。明日の食べ物はどうしようか。
私は、そんな事を考えていた。
教会を出るとマーロンとダンは、マリーの弔いに飲んでいくからと言って別れた。
「今日は本当にありがとう。元気でな。坊や」
マーロンは深い皺をくしゃくしゃにしながら目尻を下げて私に手を振っていた。
ダンもマリーの忘れ形見だからと私を何度もハグして涙目で帰っていた。
二人と別れ、あれそういえばダンは車どうするのかな?と振り返ると
運転席にはジャック、助手席にはトニーが乗っていた。そして
私を待っていたかのように、トニーが親指で後部座席を指した。
この車はジャックの車だったようだ。
私は、荷物を取って別れようと思っていたので、
「ここで、いいよ」
と言って後部座席から荷物を取ろうとした。
すると、トニーが助手席から降りてきて
「また、ホールドされたいのか?」
とドスを聞かせた声で、めちゃくちゃ睨みながら近付いて来た。
「え?なに?なんで?こっちにくるんだよ。」
動けずに硬直していたら、そのまま押されて車にイン!
本当にどこのマフィアですか。トニーさん怖すぎ。
車が発進すると助手席に乗ったトニーが、らしくない真面目な顔で
ジャックに何か話していた。
そして、本当にいいんだな?と言いながら私の方を振り返った。
ジャックはタバコを吹かしながら無言で頷いていた。
「ボーズの荷物は、あとどれ位あるんだ?」
トニーが言う。何でそんな事聞くのかと思いながら
「これだけ」
と私がカバンを指すと二人とも驚いた顔で
「それだけ?うそだろ!」
「ほんと」
「家財道具や生活用品はどうしたんだ?」
「大家が家賃代わりに持って行った」
簡単に言う私を信じられないというような目で見ている二人。
「マリーのものは?」
「洋服とか売れる物は食べる物買うために全部売った」
ごく端的に事情を言うと、トニーは同情的視線をむけた。
ジャックは、そっか。と言ってタバコを咥えたまま私の頭をくしゃくしゃと撫でた。